1. 技術士試験対策における合格戦略

 技術士二次試験の試験の関門には次の4つがあり、合格戦略としてはそれぞれにおいてどうやって高得点をとるかと言うことになります。文部科学省から出ている試験の合格基準が参考となります。

申込書(業務経歴欄) 業務内容の詳細(主要業績のプレゼン書) 筆記試験(Ⅱ, Ⅲ)口頭試験

 こうした課題に対して、確実に合格点に到達するには、図1に示すように段階的に準備を進めていくのがよいと思われます。まずは

申し込み書を作成し業務内容の詳細に着手した後中断し筆記試験の答案を作成します。そして筆記試験後に口頭試験対策

を行うのです。

図1 確実に合格できる技術士試験対策の勉強手順

 筆記試験については、ⅡとⅢで50点ずつとなり、それぞれ次のような能力が求められます。

Ⅱ 専門知識と応用能力Ⅲ 論理的考察力と課題解決能力

 この中で特に難解と思われるのが問題Ⅰ-1の「応用力」問題です。過去のセミナーの実績より、受講者の多くが

「技術を応用するとはどういうことか」

について理解するのに苦労されておりその対策が必要です。また、新試験制度では、普通に準備するとⅠ-1とⅡ-1の準備だけで筆記試験までの期間を忙殺されがちです。しかし、これでは技術的体験論文の着手が筆記試験後となり口頭試験に間に合いません。また、技術的体験論文に書く業績は申込書(業務経歴)の表現と一致しなければなりません。そこで、次のような順で作業を進めます。 

業務経歴に業績を書き出す。 技術的体験論文の貢献内容や成果を確認し、業務経歴と整合させる。 2ができたら技術的体験論文は中断し、筆記試験対策の勉強に集中する。筆記試験は問題予想、下書き作成、答案作成という3段階で書き上げる。

技術士二次試験の筆記試験であるⅠ
-1
専門科目、Ⅱ
-1
必須科目では、応用力や問題解決力が重視されます。従来は知識重視でしたが、平成19年度の試験方法の改正以降は応用力や問題解決力が重視の傾向が明確になりました。このため、新しい試験内容に対応した最適な準備を進めていかねばなりません。ここでは、技術士二次筆記試験対策の勉強法について概要と対応策を述べます。

 平成19年の技術士二次試験の改正により、これまでの経験論文はなくなり、筆記試験では専門科目に対する応用力や問題解決力といった技術士の実務で必要なより実質的な能力が問われるようになりました。平成22年度技術士第二次試験実施大綱が既に出ています。要約するとこうです。

技術士第二次試験は、各技術部門の技術士となるのに必要な専門的学識及び高等の専門的応用能力をを判定する。必須科目は当該「技術部門」全般にわたる論理的考察力と課題解決能力について問う
選択科目は当該「選択科目」に関する専門知識と応用能力について問う。

詳しい試験の趣旨や内容は直接ご覧ください。

 この試験方法が意味するところ、すなわち求められる技術士像についてご理解願います。科学技術立国を目指して、技術士の人数を増やすことは政府の急務となっており、文部科学省としてはできるだけ数多く合格させたいはずです。そこで受験者の重荷となっていた経験論文をなくし、基本的な技術応用の場面で貢献できる技術士を広く合格させるというのがねらいと思われます。熟練者の経験に依存した「玄人の経験」「高度な知識」に頼るのではなく、普遍的な応用能力、論理的考察力、課題解決能力を備えた、多くの(若い)技術者への転換です。言い換えればそのような「コンピテンシー」を試験で確かめるのが目的です。このため、

  • 知識ではなく、技術体系をうまく利用してそれらを応用して優れた結果を導く力
  • 問題点を予見し、課題、対策を提案して業務を望ましい方向に導く能力
などの表現が求められるようになります。このような技術者を、後述する「コンピテンシー」というものを確認して選定していくのが技術士二次試験なのだとお考えください。

 「コンピテンシー」とは何か。それは一般に、次のように定義されています。

高い業績をコンスタントに示している人の行動の仕方などに見られる行動特性」 

 これはもともとは、ハーバード大学の心理学者であるD.C.マクレランド教授らが行った外交官の能力調査に始まります。調査結果は「学歴や知能は業績の高さとさほど相関はなく、異文化感受性、人間性を尊重思想、人的ネットワーク構築力などが関連する」としたことが始まりです。

 このコンピテンシーがなぜ日本語で能力と呼ばず、あえて「コンピテンシー」というカタカナ語を使うかと言えば、能力を見る観点が、従来の能力観とは異なるからです。コンピテンシー的な能力の観点とは、「成果につながるかどうか」という観点で能力を見ることを意味しています。

この、コンピテンシーに基づく能力モデルについて、人材採用試験について書かれた文献「コンピテンシー面接マニュアル」では下図の「コンピテンシーのイメージ」を用いて次のように説明しています。以下、簡単にコンピテンシーについての説明をご覧ください。

conpi_1.jpg

 「真ん中の行動という○を囲むように四つの○(知識・経験、成果イメージ、思考力、動機)と四本の矢印が描かれています。まわりの四つの○は、従来型の能力観の中でよく語られてきた「能力」の要素であり、これらがそろっている人材が「能力がある人材」と見なされてきました。確かに、これらは能力の構成要素には違いないのですが、それだけでは成果には結びつきません。この図の周囲の4要素が成果に結びつくためには、それらが行動に還元されなければならないのです。
 たとえば、知識・経験はあくまで道具であって、これが行動というレベルで使われないままであるなら、いくら質や量があってもその価値はゼロです。次に成果イメージがあることは、成果を上げる上で有利ではありますが、イメージがあっても行動がなければ成果は生まれません。また、思考力がある、論理的に周囲を説得できる、議論に強い、これらもその一歩先にある行動や実行につながってはじめて意味を持ちます。さらに、内からわき出るモチベーションが高い、あるいは周囲への動機のアピールがうまいといいうのも、やはり行動の前段階の条件にすぎず、それ自体では何ら成果を生み出しません。したがって、コンピテンシー的な能力の観点による人物評価とは、その人が、知識・経験、成果イメージ、思考力、動機などを行動に還元して発揮し、成果を生み出すことができる特性を有しているかどうかを評価することに他なりません。」

以上、コンピテンシーについて抜粋しましたが、この行動をとり囲む四つの能力(知識・経験、成果イメージ、思考力、動機)という概念が、技術士として能力を測る指標となっていることは想像に難くないことだと思います。従来の技術士試験では「高度な知識重視」とされてきましたが、これは「知識・経験」というコンピテンシーに至る1つの要素に過ぎません。「知識・経験」だけではコンサルタントとしての現場での能力が測れないという反省があったのです。そこで、究極的に「成果につながる」ことを見るため、コンピテンシーを重視するようになったのです。つまり、残りの3要素である「成果イメージ」、「思考力」、「動機」が試験で試されるようになりました。このうち筆記試験ではとりわけ「成果イメージ」と「思考力」に重点をおいて確認されるのです。「成果イメージ」とは現場業務での技術課題や目標の設定であり、「思考力」は問題解決能力です。そしてそれらを確認するため、具体的事例での対応過程などを問題の中で試されるのです。試験の採点側の意図を述べましたが、このように試験では答案によって受験者の限られた側面だけしか見てもらえないという限界があります。逆に言えば、受験者としては試験答案に「技術者としてのコンピテンシー」を表現することに最大限の努力を払えばよいということです。 以上、述べてきましたように技術士筆記試験の勉強法においては、まず「技術者としてのコンピテンシー」として何が求められるのか過去問分析の中でつかみ取ることが第一です。そしてそれらが答案作成の段階で的確に表れるようにすれば良いのです。

技術士指導において大事なことは技術者としての未知の能力の可能性を開くこと

 本研究所の初期の指導では、体験や知識、テクニックを「教え込む」ことが中心でした。今でもこの手の参考書が多数販売されています。「私はこのようにして合格した。だからあなたもこうしなさい」というものです。しかし、この方法は成果が上がりませんでした。即効性はあるものの、限界もあったのです。そこで試みたのが受講者様の体験を聞き出して、その中の問題点や課題を探り出すという作業です。つまり「教え込む」ことから「コーチング」への転換です。「相手が知らないから教える」という指導から「相手は知っているはずだから、共に考え、それらを引き出す」ようにしたところ、驚くほど指導がうまくいきはじめました。

 このことは理にかなっています。本来、経験豊富な技術者の方々は、知識も豊富なはずです。しかし知っていることを自覚していないことは多いものです。コーチングは、受講者様が自覚していない潜在的な知識やスキルを引き出し、それらを知恵として結びつけていく作業となります。つまり「知っていること」と「新しい情報」を結びつけ、「技術士にふさわしい知見」を作り出す作業が本研究所のコーチング指導なのです。

コーチングとはどのような指導か

 コーチングの本質について、「コーチングの技術」(講談社現代新書)の著者、菅原裕子氏は、ティモシー・ギャロウェイという学者の定義を引用して次のように説明しています。

 コーチングとはある人間が最大限の成績を上げるために、その人の潜在能力を開放することを言います。そのためには、指導者は仕事のやり方を教えるのではなく、対象者が自ら学べるように援助しなければなりません。

そして、菅原氏はコーチングの人生観を次のように結論づけています。

技術士合格への道研究所が目指すコーチング指導

 さて、当研究所が提案するコーチング指導の分かりやすいたとえとして、菅原氏が前書の中で先のティモシー・ギャロウェイの考え方を引用して紹介されています。

「一人の人間の中には二人の自分がいる」、一人は命令を出し、評価し、うまくやらせようと叱咤する自分(セルフ1)であり、もう一人は、本能的に知っているプレーをしようとする自分(セルフ2)である。
 下の図【承認・質問】(図は「コーチングの技術」からの引用)をご覧ください。
これは理想的なコーチの例です。この図ではセルフ1が対象者の心を支配せずに、セルフ2に自由にプレーさせます。この作業ではセルフ1は、適切な問いかけにより、問題の本質や解決法の気づきを促します。セルフ1はまずセルフ2を承認し、「どうしたら君らしくできるかな?」といった問いかけによって、自発的かつ創造的な答えを導きます。セルフ2は自発的に物事に取り組んでいくことになります。このようにセルフ1に支配させずに、セルフ2に自由にプレーさせる、これこそが、人間の潜在的な能力の発揮であり、本来のコーチングの効果なのです。本研究所ではこのようなコーチング指導を目指しています。
 

本講座が目指すコーチング 図は「コーチングの技術」、菅原裕子著、講談社現代新書より引用しています。

過去の望ましくないコーチング

 さて、過去には望ましくないコーチングがあり、その代表例がスポーツ指導の分野で見られました。
 下の図【叱咤激励・指示命令】(図は「コーチングの技術」からの引用)をご覧ください。これは望ましくないコーチの例です。この図では、一人目の自分(セルフ1)が、何かに無心に取り組むもう一人の自分(セルフ2)を冷たい目で眺め、「そんなことじやダメだ、もっとうまくやれ」と囁きます。セルフ1の声が聞こえた途端、私たちは緊張し、本来セルフ2が知っているはずの最高のプレーができなくなります。セルフ1はまるで、口うるさい上司のようです。部下のすることを信頼せず、くどいほど教え、指示や命令をします。これは昔の野球やサッカーの"シゴキ"と同じです。この古いスポーツのコーチのイメージが強いため「コーチング」とは叱咤するものだと、誤って思い込んでいる方もいますが、実は全然違うものです。

好ましくないコーチングの例

  好ましくないコーチングの例

本研究所のコーチング指導

 本研究所ではコーチングを科学的手法として取り入れて指導に役立てています。この指導効果は技術士答案の画期的な改善となって表れます。より詳しく説明するため、具体的な技術士指導におけるコーチングのプロセスをご説明しましょう。概ね次のような流れで段階的にコーチングしながら指導を行います。

①現状確認

受講者様が抱えている技術士試験準備における問題点を確認し、それに対して受講者様がどう考えているか確認します。そして指導方針を話合います。

②業務上の成果の確認

経験論文等においては題材として取り上げる物件について、答案として書ける可能性について確認します。まず、成功例をいくつか挙げて、それに対して受講者様がどの程度情報を用意できるのかを確認します。取り上げたいという願望の強さなども考慮します。

③問題点、課題の特定

受講者の業績をヒアリングし、何が問題点かを特定します。じっくりと話を聞いて現状を正確に把握して、その上で問題点を特定します。問題点が特定できたら、その分析を行い課題を特定します。これらの作業は、チェックシートに書きながら進めます。

④対策の検討

問題点を解決する対策です。経験論文では「実際にどう考えて、どう対策したか」を確認します。

⑤技術応用の確認

技術士の務め、専門分野の技術をどのように効果的に応用したかを確認します。技術応用のモデルを体得してもらいます。

⑥評価と展望

現時点での評価と今後の展望について考えます。将来展望の視点のヒントを与え、見解をご自分でまとめていただきます。

まとめ

技術士指導におけるコーチングとは、いわば受講者の「できる」を引き出す魔法のプロセスです。そのやり方は一言で言うと次のような手順です。

という流れを生みます。この①〜③の結果として技術者としての可能性を大きく開発することが可能なのです。

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