H26年 化学部門、セラミクスおよび無機化学の答案について合格判定を致しました。
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解答
1.工業化検討への4つの観点について
(1) 新素材の特性
研究部門で新素材を作る場合、少量で作られることが多い。一方、工業化する場合は、一度に大量に作られる。このとき、個体間に機能のバラツキが生じてしまうという問題点が発生する。従って、個体間の品質の安定化が課題である。
■問題文では新素材の特定を求めていますが、書かれているのは一般論に過ぎません。
(2) 新素材のコスト
前述したとおり、工業化の場合、個体間に機能のバラツキが生じてしまうという問題点がある。このとき、基準値に入らない場合は、不良品になってしまうため、製造コストが上昇してしまう。従って、工業化の場合には歩留りの向上が課題である。
(3) 安全性について
工業化に伴い、危険な装置や物質を使用する場合が多い。このような問題点に対しては、リスクアセスメントに基づいて、工業化を進めていけばよい。
■「リスクアセスメントに基づいて、工業化を進めていけばよい」その通りです。ここではこのような書き方ではなく、具体的にどうリスクアセスメントに基づいて、工業化を進めるかの提案が求められています。このような提案から逃げた書き方だと答えになりません。場合によっては、消極的(=能力不足)という評価を下されかねません。
(4) 環境対策について
前述したとおり、新素材の製造にあたり、危険な物質を使用することがある。この場合、危険物質の漏洩対策を実施すればよい。しかし、その危険物質が環境に与える影響が大きい場合には、代替物質の検討も選択肢の一つであろう。
■環境対策として当然誰もがやるべきこと。技術士の提案に値しません。
2.新素材工業化に向けたコスト低減
工業化に向けたコスト低減としては、①歩留りの向上、②適切な製品機能(品質)を挙げることができる。
■ここは問題文では1つと指定されています
(1) 歩留りの向上
前述したとおり、工業化での大量生産は、品質バラツキが発生する。これを改善するためには、各工程のCpkを向上させることが必要である。具体的には、各工程の不良項目と発生率から、Cpk向上への課題を抽出する。その後、その課題への対策に対して、PDCAサイクルを行いながら、目標を達成していけば良い。
(2) 適切な製品機能(品質)
必要な品質(新素材の機能)は、顧客によって違う場合が多い。従って、工業化を進めるに当たり、顧客に製品評価をしてもらいながら進めていけばよい。その結果、低コストで良質な製品提供が可能となる。
3. コストと安全性の問題について
品質の安定化のために、危険物質を使わなければならない場合がある。安全性の確保の観点から、暫定対策と、長期的な対策について以下に述べる。
(1)暫定対策
リスクアセスメントを実施し、作業者への負荷低減や漏洩等の対策を徹底的に行う。この場合、コスト増となるがやむを得ない。
(2)長期的な対策
危険物質に代わる代替物質の開発や、危険物質を使わない工程開発などを挙げることができる。このように、低コストと低リスクを同時に達成していく。
■この3の解答は「(2)で述べた検討①歩留りの向上、②適切な製品機能(品質)を進めるに当たり、 (2)で選んだ観点に影響を及ぼすと考えられる他の観点を挙げ,互いの関係及び検討の進め方」を述べるものですが、まったく意味が通じません。
解説
問題文の趣旨が読み取れていなくてとても残念です。問い(3)がもっとも難しくてこの難関が答案の焦点となっています。
(2)で述べた検討を進めるに当たり、 (2)で選んだ観点に影響を及ぼすと考えられる他の観点を挙げ,互いの関係及び検討の進め方について説明せよ。
とはどういうことか。
(2)で述べた検討とは、ここでは「歩留りの向上」と「 適切な製品機能」でしたから、それらを進めるに当たり、その2つに影響を及ぼすと考えられる他の観点を挙げなければなりません。 答案で書かれているのは,危険物質とその暫定対策、長期的な対策ですがこれでは意味が通じません。「歩留りの向上」と「危険物質」の関係といわれてもあまりイメージできません。答案ではただ「危険物質」とその検討の進め方が述べられているだけです。
そもそもなぜ、(2)で述べた検討を進めるに当たり、 (2)で選んだ観点に影響を及ぼすと考えられる他の観点を挙げ,互いの関係及び検討の進め方について考えなければならないのかです。これは簡単です。
自身の提案に対して、違う観点から見て、多角的に検討して整合を図って解決しなければならないということです。技術士試験ではそのような専門家としての資質、能力を測っているということなのです。