2018年3月13日 建設部門、鋼コン科目の方の電話によるコーチング指導
この日のコーチングによる指導時間は17時30分から、42分間行なわれ,その受講者様は建設部門、鋼コン科目を目指す方で、居住地の宮城県から電話を用いて相談されました。リスクの考え方について質問されました。
まず問題文と解答文は次のようになっていました。
H29 Ⅲ-2
我が国では、近年、平成23年3月東日本大震災、平成26年8月豪雨、平成27年9月関東・東北豪雨、平成28年4月熊本地震など、各地で自然災害が発生している。このように、連続する大規模地震、津波や集中豪雨のように、いままで経験したことのない自然災害が発生している。このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)我が国の自然災害に対するインフラ、公共施設の社会資本の防災・減災に向けた対策における問題点、克服すべき課題について、幅広い視点から概説せよ。
(2)上述した課題を踏まえ、鋼構造の分野において、あなたが最も重要と考える技術的課題を2つ挙げ、それぞれについて解決するための技術的提案を示せ。
(3)あなたの技術提案それぞれについて、それらがもたらす効果を具体的に示すとともに、その技術的提案を実行する際のリスクや課題について論述せよ。
(1)問題点、課題
1) インフラに粘り強い構造を導入
自然災害でインフラの脆性破壊・全体崩壊が生じた場合、住民の避難時間が確保不可で多大な被害。よって従来の耐荷力の増加対策に加え、塑性変形の許容によりインフラに粘り強い構造を導入することが課題。
2) 維持管理のコスト低減
インフラの防災機能を発揮するためには維持管理で部材健全が前提→予算不足の状況下では全施設への長寿命化や予防保全管理が困難。よって、インフラの設置環境や重要度、要求性能に応じた維持管理でコストの低減を図ることが課題
3) 技術者の確保
インフラは災害時の救援活動拠点だから早期復旧が必要だが、技術者不足。よって、産学官が連携した人材育成、残業時間削減や週休二日制導入等による労働環境の改善で技術者を確保することが課題
(2)重要な技術的課題と技術的解決案
課題1)鋼橋上部工への粘り強い構造を導入
提案1)粘り強い構造を導入するため、鋼上部工の塑性化・部分破壊の許容や地震Eの吸収によって、脆性破壊を抑える。具体的には、塑性設計や制震デバイス(ダンパーによる減衰付加)の導入
課題2)鋼橋の維持管理のコスト低減
提案2)コスト低減のため性能照査型設計法の導入により架橋環境、重要度、設計耐久年数に応じた維持管理手法・構造を設定。具体例1防食①飛来塩分多→高耐久の金属溶射やグラッド鋼②残存寿命短→低耐久Ra-Ⅲ。2点検①長大中橋→センサーで腐食自動探知②小橋→簡易点検。3構造:長支間→合理化少数桁で部材低減
(3)効果・リスク・課題
1)塑性設計について
①効果:脆性破壊・全体崩壊を防止→住民の避難時間を確保→人命を守る。
②リスク:塑性化後の断面は、車両通行等の荷重により破断が生ずる危険。
③課題:活荷重に対する塑性断面耐荷力のFEM検証や破壊部材削除モデルでの解析等で積載荷重制限や補強部材設置を判断
2)性能照査型設計法について
①効果:要求性能に応じた維持管理でコスト低減→部材健全保持→防災機能発揮
②リスク:社会情勢変化に伴い要求耐久年数が設定値より増加→損傷発生拡大
③課題:定期的な維持管理手法見直し+社会情勢変化(予算)を踏まえた劣化シュミレーションで設定耐久年数の精度向上
②③の修正案
②リスク:設計耐久年数と実耐久年数のギャップが生じた場合、採用した維持管理手法・構造が過大設計または耐久年数不足から損傷の発生・拡大
③課題:維持管理手法・構造の耐久性データ蓄積+維持管理を踏まえた劣化シュミレーションで設計耐久年数の精度向上
性能照査型設計では目標寿命前に損壊する確率は0ではない。これは基本的な前提事項です。ですので、問題(3)で求めるリスクとは、そのような一般事項ではなく、ご自分が提案内容の方策に含まれるリスクを精査することを求めているということです。
すなわち、(2)の「重要な技術的課題と技術的解決案」では課題として次の2つが宣言されていました。
課題1)鋼橋上部工への粘り強い構造を導入
課題2)鋼橋の維持管理のコスト低減
これらを行うことによって発生する頻度は小さいが被害額の大きい現象は何かという問題です。一般の人にはわからないが、技術的なメカニズムを考えるれば技術士なら推論可能である事項が問われています。
また、改善案に示されている「設計耐久年数と実耐久年数のギャップが生じた場合、・・」という前提は答える内容の意味を狭くしてしまいますので好ましいものではありません。このようなことをコーチングによって指導しました。