R1年 機械部門、機構ダイナミクス・制御の答案について添削致しました。 20210125
この答案についての講評
この過去問答案の答案ⅠⅡⅢの評価はBBBという残念な結果でした。他のⅡ、Ⅲ答案は時間切れでCとなっています。一番の理由は、課題が他領域に発散しているということと、解決策が機械や機構ダイナミクスの技術領域ではなく、改善の一般論になってしまっているということです。ここではB、CをAにするにはどうするか。AをAのまま維持するにはどうすべきかを申し上げます。
また、波及効果、懸念事項、調整事項など、プロの技術士としての対応も本講座ではテキスト、テンプレートを用意して指導しております。このため誰でも短時間で正解できます。本研究所ではコーチング形式で応用力を高める練習をしておりますので、この指導によって誰でも改善可能です。このような惜しい答案の方には、是非お勧めいたします。
音声ガイドによるコーチング指導内容(40分44秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
2018年7月に発表されたエネルギー基本計画の中では,2030年に向けた政策対応の1っとして,「徹底した省エネルギー社会の実現」が取り上げられており1業務・家庭部門における省エネルギーの強化,運輸部門における多様な省エネルキー対策の推進.産業部門等における省エネルギーの加速,について記述されている。我が国のエネルギー消費効率は1970年代の石油危機以降,官民の努力により4割改善し,世界的にも最高水準にある。石油危機を契機として1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」では,各部門においてエネルギーの使用が多い事業者に対し毎年度,省エネルギー対策の取組状況やエネルギー消費効率の改善状況を政府に報告することを義務付けるなど,省エネルギーの取組を促す枠組みを構築してきた。また,2013年に省エネ法が改正され,2(月4年4月から需要サイドにおける電力需要の平準化に資する取組を省エネルギーの評価において勘案する措置が講じられるようになった。このような社会の状況を考慮して,以下の問いに答えよ。
(1)徹底した省エネルギー社会の実現に向けて,あなたの専門分野だけでなく機械技術全体にわたる多面的な観点から,業務・家庭,運輸,産業のうち,2つの部門を選んで今後取組むべき技術課題を抽出し,その内容を観点とともに示せ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を一つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)上記すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
(4)業務遂行において必要な要件を機械技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から述べよ。
■エネルギー基本計画ではエネルギーの使用が多い事業者は省エネルギー対策の取組状況やエネルギー消費効率の改善状況を政府に報告する、電力需要の平準化に資する取組を省エネルギーの評価において勘案するとあります。これらをもとに課題を考えてみましょう。
「徹底した省エネルギー社会実現に向けた課題」
(1)技術課題と内容・観点
3つの部門の内、「業務・家庭」「産業」について記述する。業務はオフィス勤務を想定して記述する。
課題①:省エネルギー装置開発と推進
業務・家庭でのエネルギー消費の内大部分は、家電・照明・PC・複合機によるものである。そのため、各装置の省エネルギー化技術の開発と導入推進を行う必要がある。例えば、省エネルギー家電の積極導入や複合機の省電力化などである。
課題②:環境配慮技術の導入推進
業務・家庭での省エネルギー化を最大化するためには、上記の課題以外に環境配慮型技術を導入し、火力・原子力発電から供給される電力に依存しないことが必要であると考える。例えば、太陽電池・蓄電池による自己発電システム導入、また、通勤時に使用する移動手段を水素水素自動車に変えるなどが挙げられる。
課題:工場消費エネルギー低減化
工場などの産業部門のエネルギー消費量は高出力機器を使用するため、業務・家庭よりも多い。そのため、徹底した省エネルギー社会を実現するためには、早急に対策を打つことが必要である。
(2)最重要課題と解決策
2−1.最重要課題:課題
上記にも記載したが、工場などの機器・システムによる電量消費量が非常に高いため、課題を最重要改題とする。
2−2.解決策
■間違いではありませんが、あまり主題とは関係ない一般的な省エネ提案です。エネルギー削減のプロセスとして、技術士に相応しい独創的な提案をしましょう。
解決策①:装置の消費エネルギー低減化
工場でのエネルギー消費の内、高出力・消費エネルギー大である装置の省エネルギー化が重要であると考える。そこで、IT・IOT活用のエネルギー供給制御方式を導入する。例えば、IOT技術により装置の稼働状態をモニターし消費エネルギーを最適化する等である。
解決策②:工場内の消費エネルギー低減化
工場内での消費量低減を最大化するためには、上記の装置以外に工場内の照明などの省エネルギー化が必要であると考える。そのため、工場内エネルギー消費制御システムを導入する。例えば、不必要な照明は自動的に消灯される制御、ガス等は供給量制御システム導入が挙げられる。
解決策:生産効率化
工場でのエネルギー消費量は生産量によって大きく左右される。部品等の歩留まりにより作り直しが発生すること、また、工程が多いとエネルギー消費が増大する。そこで、工程高品質化・工程改善により作り直し等削減しエネルギー消費を削減できると考える。
(3)波及効果と懸念事項
■波及効果とは、一見関係ない現象が別の物事に影響を及ぼす現象です。例えば、臭気を発する施設の近隣には負の波及効果が発生し、イベントを行えば周囲も盛り上がる正の波及効果が発生します。省エネ対策をしているので、対策に由来して周辺で発生する事項を取り上げてください。例えばもう少し広い経済、社会影響などが良いでしょう。
「他部門にも・・」は応用した場合の仮想であり、波及はしていません。すなわち他部門の省エネは何も実現してはいません。
3−1.波及効果
上記解決策を実施することで、産業部門での省エネルギー化が促進される。また、解決策①②は他部門にも適応することができるため、徹底した省エネルギー社会の実現に近づくことができる。
3−2.懸念事項
■故障するのは、提案のシステムでもそうではないシステムでも同じ一般的事項なので、問2の解決策に由来した直接的な事項を提案しましょう。
懸念事項①と対策:制御システム故障により生産が停止してしまう懸念が挙げられる。そこで、故障の予兆診断システムを導入する。これにより故障を未然に防止することができると考える。
■団塊世代大量退職は2の提案と無関係です。
懸念事項②と対策:団塊世代大量退職により、技術者が不足する懸念がある。そこで、技術継承を積極的に行うことを提案する。例えば、OJT(ベテラン若手ペア)、WEBを用いた教育・研修などが挙げられる。
(1) 業務遂行においての必要要件
4−1.技術者としての倫理
■具体的に何をするかという「要件」を示しましょう。
技術応用により公益性を高めて問題点を解決する姿勢を示しましょう。
① 人材育成:グローバルな視野、技術部門を超えた広い視野で活躍できる人材を育成する。
② 公益の確保:業務遂行に際しては、公衆の安全、健康と福利を第一優先で推進する。
4−2.社会の持続可能性
① 環境への影響低減:環境保全などの社会の持続可能性の確保に努める。
② ICT・IOTの積極的活用:ICT・Iot技術の積極的活用により、オープンイノベーションを推進する。①②により、SDGsの7番目と9番目に貢献できると考える。以上。
本講座ではこのような細かい対照法について具体的に添削指導しています。
Ⅱ−2−2
鉄道車両.自動車などの車内の静粛性は利用者の快適性に直接関わる重要な開発項目である。あなたが新製品の車内騒音低減プロジェクトのリーーダーとして業務を進めるに当たり,下記の内容について記述せよ。
(1)車内騒音の主な原因を2つ以上挙げ,それそれに対してその内容と低減対策方針について説明せよ。
(2)(1)に基づいて原因ごとに担当を決めて開発を進めたが,車内騒音の全体目標に対して大幅に性能未達となることが判明した。対策を進める手順とその際に留意すへき点ーエ夫を要する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的に,効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
(1)騒音の原因と低減対策方針
1−1.原因
■原因を2つ以上挙げ・・ですが、この①②は類似しているので1つと同じになります。
原因①:エンジンモーターから発生する音
エンジンモーターが駆動するとき、ギア同士の接触により音が発生、また、エンジン自体の振動により音が発生し、車内に音が伝達されることが原因である。
原因②:エンジンモーターからの振動による共振
エンジンモーターから発生する振動がその周りの部材の固有振動数と一致し共振することで音が発生し、車内に音が伝達されることが原因である。
1−2.対策方針
原因①の対策方針:対策方針は、エンジンから発生する振動を抑制すること、また、発生した音を遮断することである。例えば、機構に振動を抑制する制振材を設置する、また、エンジン回りに吸音材を設置し、車内へ音が伝達しないようにする等である。
原因②の対策方針:対策方針は、共振引き起こす振動を抑制することである。例えば、共振振動数をずらすために剛性を変更するなどである。
■問題文には「原因ごとに担当を決めて開発を進めたが,車内騒音の全体目標に対して大幅に性能未達となることが判明した。」とあります。原因ごとの対処ではなく、騒音目標を総括的にとらえる視点が必要になります。
(2)手順と留意点・工夫点
2−1.手順
■問題解決の一般的手順であり、この問題が求める騒音解析の答えになっていません。
技術士試験の答えは、必要十分な内容にしましょう。
効果的な対策とするための工夫が必要です。この論理性の深い意味を理解する力が求められます。
① 計画リプラン・体制を整える、②現状把握:騒音発生個所の特定と発生メカニズム究明、対策立案・高確認、④設計レビュー・仕様決定、メーカー選定(見積もり込)・発注、⑥確認試験、⑦導入
2−2.留意点
原因究明時は、抜け漏れがあると確認試験時にトラブルによる後戻りが発生し、さらに計画が遅延するため、メカニズムを基に確実に原因究明して進める必要がある。
2−3.工夫点
メカニズム究明時、過去の知見者や関連部門のメンバーと議論し抽出することが必要であるが、議論が進まない(条件が思いつかない)、発散してしまう可能性がるため、ロジックツリーなどのツールを用いて行うと良い。
(3)業務を効率的・効果的に進めるための調整方策
方策①:目的の明確化と説明
開発には様々な人が関わり、時に各開発者独自の判断が下されることが多々ある。導入の目的・目指す目標を責任者が自ら各開発者に説明・整合することで、意思の統一が図られ、効果的に開発が進めることができる。
■これも効率的解決の事務的な手順になってしまうため、この問題が求める騒音解析技術の具体的内容を効率化する答えを提案しましょう。
方策②:工程フォロー会の実施
業務を効率的、効果的に進めるため、隔週で工程フォロー会議を実施し、計画に基づいて進んでいるか確認する。遅延等の問題が発生したときは、要因を分析し原因特定と対策を講じる、計画リプラン、予算管理、また、場合によっては人員配置変更が必要である。以上
Ⅲ−2
制御系を備えた機械システムでは,システムの異常動作時あるいは作業者の誤操作時に.安全性を確保するために自律的に緊急停止させる機能,あるいは作業者が容易に緊急停止させる機能を実装していることが必須である。機構ダイナミクス・制御の技術分野に係る機械システムを想定し,このような機能を機槭系及び制御系で実現するための手段について,以下の鬮いに答えよ。
(1)想定した機械システムの概要を示せ。また,その機械システムを緊急停止させる必要があると判断される危険事象を,機構ダイナミクス・制御分野の技術者としての立場で多面的な観点から複数抽出しその内容を観点とともに示せ。
(2)前問(1)で抽出した危険事象のうち最も重要と考える事象を1っ挙げ,その事象を回避するために要求される機能とその技術的な実現手段を複数示せ。
(3)前間(2)で提示した複数の実現手段に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について,機構ダイナミクス・制御分野の専門技術を踏まえた考えを示せ。
「自動車で実現するための手段」
(1)緊急停止が必要な危険事象
危険事象①:操作者の誤操作、不注意
最近発生している自動車事故の内、操作者の誤操作・不注意によるものが多い。例えば、高齢者による誤操作
(アクセルとブレーキを間違えて急発進
■↑これが正解。上記以外は誤動作に相当しません。
して事故に至る等)、スマホのながら運転による不注意によるものが多い。
危険事象②:自動車の故障
■ブレーキペダルの故障とは具体的に何が壊れ、どんな事故になるか述べましょう。
操作者による危険事象の他に、操作対象物である自動車の故障によるものがある。例えば、ブレーキペダル故障による事故などが挙げられる。
危険事象:自然災害
操作者と操作対象物(自動車)以外に、自然災害による危険事象がある。例えば、
■これは誤動作の対象外です。
地震発生により、ハンドルがとられてしまう、また、
■これも対象外になります。
急停止により後続車両との衝突事故などがある。
危険事象④:人・動物の飛び出し
自動車事故の内、操作者の意図しないタイミングで人・動物が飛び出してくる危険事象がある。例えば、子供・動物の飛び出し、OK事故等がある。
(2)重要事象、要求事象と実現手段
2−1.重要事象
■「操作者の誤操作」とは何かその原因を突き止めましょう。そして事象を分類して定義しましょう。精密機器の技術応用で対処すれば問題は解決します。
自動車システムは、人が操作する協働するシステムである。この操作者である人は、人である以上、誤操作・不注意を完全に防ぐことは不可能である。そのため、危険事象①が重要事象であると考える。
2−2.要求される機能
上記危険事象を回避するために要求される機能は、危険行為を事前に防止し、させない機能であると考える。
2−3.技術的な実現手段
■汎用的に取り扱っているとの考えかもしれませんが、誤操作に対してフールプルーフは一般論で終わっており、具体的な答えになりません。誤動作の真の原因を究明して信頼性工学の技術で対処することが必要です。
上記要求機能を実現するために、フールプルーフ設計が必要であると考える。下記に具体的な手段を記述する。
手段①:AI案内技術による誤操作防止
■誤操作を具体的に定義しましょう。
操作者による誤操作は、焦っている時や疲れている時など、思考能力が低下している時に発生することが多い。そこで操作を案内する技術を導入することを提案する。例えば、AIによる案内技術を導入し、案内通りに操作しないと駆動しないようにする等である。
手段②:画像センサ・AIによる不注意防止
■不注意は誤操作とは別物で、必ずしも事故には繋がらないので、本質的な誤動作に集中しましょう。
不注意は、スマホを見ながら運転している、また、居眠りにより注意散漫することで発生する。そこで、注意散漫していることを診断、もしくは予兆するシステムを提案する。例えば、画像センサによりスマホを見ていることを判断、もしくは、居眠りしそうなことを画像センサ・AIにより予兆し事前に操作者に知らせるなどである。
手段:GPS・AIによる逆走防止
■「逆走」だけを単一で回避するのではなく、もっと広い認識で対処しましょう。
最近、高齢者の不注意、もしくは知能障害により判断が低下し、逆走してしまう事故が多発しており問題になっている。そこで、IT/IOT技術による逆走防止システムを提案する。例えば、GPS・AIにより位置情報を把握し逆走している時はAIにより判断・制御するようにする等である。
(3)リスクと対策
3−1.リスクと対策
リスク①:コスト増
■コストは分かり易いので、技術士の試験はコンピテンシーを高めるため、もう少し因果関係の先まで予測して予想外のリスクを探しましょう。
画像センサー・AI等のシステムを導入することでコストが増加してしまうリスクがある。
リスク①の対策:部品の共通化
構成する部品を共通化することでコストを抑えることができると考える。例えば、使用されているセンサを一括購入することでコストを抑えることが可能となる。
リスク②:技術者不足
■少子高齢化も団塊世代の大量退職も問2の提案とは異なる要因です。ここでの趣旨は提案に対する自己評価、すなわち技術者倫理からの反省のために問いかけています。改善によって公益性を高めるような提案にしていきましょう。
今後、少子高齢化、団塊世代の大量退職によりAI技術を開発、扱う技術者が不足するリスクが考えられる。
リスク②の対策:技術継承と外国人労働者積極活用
上記リスクを回避させるためには、OJT(ベテラン若手ペア)・教育により積極的に技術継承を行うこと、また、外国人労働者を積極的に採用・教育することで回避することができると考える。以上