R2年 機械部門、流体機器の答案について添削致しました。 20210119
この試験答案Ⅰの評価はC、Ⅱは試験場で回答できなかったとのことです。ⅢはR1年の練習問題です。Cの理由としてⅠは具体的な提案ができていなかったことがあげられます。またⅡ、Ⅲでは主題が見えないため答えが発散してしいるように拝見いたします。敗因について「専門知識の不足」を挙げる方がたくさんいらっしゃいます。しかし、技術士試験の答案の通りの知識をあらかじめ暗記しておくなどということは無理です。技術士としては、課題を分析して、解決策を提案し、そのチェック・反省をするだけのことです。技術士としての「技術応用」の提案が必要です。これは練習を重ねていけば、能力を高めていけますので、楽勝で合格することが可能です。本研究所ではコーチング形式で応用力を高める練習をしておりますので、このようにどこがいけないかわからない、どう書いたら正解できるかわからない方に是非お勧めいたします。
音声ガイドによるコーチング指導内容(21分20秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-1
我が国において,短期的には労働力人口は著しく低下しないと考えられているものの,女性や高齢者の労働参加率の向上もいずれ頭打ちになり,長期的には少子高齢化によって労働力人口が大幅に減少すると考えられる。一方で,「ものづくり」から「コトづくり」への変革に合わせた雇用の柔軟化・流動化の促進,一億総活躍社会の実現といった働き方の見直しが進められている。このような社会状況の中で,実際の設計・開発,製造・生産,保守・メンテナンス現場におけるものづくりの技術伝承については,現場で実務を通して実施されている研修と座学研修・集合研修をいかに組み合わせるか等の,単なる方法論の議論だけでなく,より広い視点に立った大きな変革が求められている。このような社会状況を考慮して,機械技術者の立場から次の各問に答えよ。
(1)今後のものづくりにおける技術伝承に関して,機械技術全般にわたる技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)上記すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と新たに生じる懸念事項への対応策を示せ。
(4)業務遂行において必要な要件・留意点を機械技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から述べよ。
(1) 技術継承に関する課題
人材の確保および定着
ものづくり企業におけるキーパーソンは熟練技能者である。生産年齢人口減少による人手不足のために技能継承する側および継承される側の双方の確保が困難となるおそれがあり、人材の確保および定着が課題である。
いずれも現状の制約事項の再確認であり、だからどうするという機械技術者としての視点がありません。
② 継承時間の確保
技能は、実際の体験等を通じて人から人へと継承される。このため伝承には時間を要するが、生産年齢人口減少による人手不足のために伝承のための十分な指導時間が確保できないという課題がある。
③ 品質の確保
2018年の国内製造業の認識では品質トラブルが生じる原因の6割が「従業員教育の不足」という報告があり、技能継承の段階から信頼性の高い品質保証体制の構築が課題となる。
(2) 製造業各分野の持続的発展のために技術継承と人材育成に関する最重要課題と解決策
人的資源管理の一般的(事務的)手続きを書かれています。
技術士試験としての要件が読み取れていないようです。
次のページの要望に応えないと、答案になりません。
最重要課題の抽出
分析した課題の中で「人材の確保および定着」が最重要であると判断した。特に技能は実際の体験等を通じて人から人へと継承されるため、人材の確保および定着は継承活動に不可欠であると考えた。
- 短期的には労働力人口は著しくは低下しない。
- 女性や高齢者の労働参加率は今は向上してきたが、いずれ頭打ちになる。
- 長期的に見ると少子高齢化によって労働力人口が大幅に減少する。
- 「ものづくり」から「コトづくり」への変革に合わせた雇用の柔軟化・流動化の促進がされている。https://www.kyushu.meti.go.jp/seisaku/jyoho/oshirase/200611_1_2.pdf
- 一億総活躍社会の実現といった働き方の見直しが進められている。
- 技術伝承とは、ОJTと座学の組み合わせ法など、単なる方法論の議論だけでは効果がない。
- より広い視点に立った大きな変革が求められている。
■このような社会状況を考慮して,機械技術者の立場から答えよということです。
② 最重要課題に対する解決策
a) 多様な人材の活用
産業全体の労働人口不足が製造業における人材不足の原因である。このため労働人口の底上げを目的としてシニア、女性、外国人労働者など、多様な人材を活用する。これにより、製造業の人材確保も改善できると考える。
b) デジタル技術を活用した人材教育
確保した人材については、人材の多様性を考慮した教育を実施し人材の定着を図る必要がある。教育は熟練技能者の動作をセンシングしデジタルデータにすることで作業に含まれる暗黙知を形式化するなどデジタル技術の活用が有効である。形式化された作業は、IT技術により多言語化、動画化等することで働き方の多様化に対応した教育が可能になると考える。
c) 標準化と定期的確認による人材育成
一定の教育を受けた人材は、スムーズな育成を経験することで職場への定着が促進されると考える。社内規格などにより作業を標準化することで、技能の達成基準が明確となり人材のスムーズな育成ができる。また、技能継承の訓練道場などを設けて定期的に作業者の育成度合いを確認し、アドバイス等をすることで人材の定着が期待できる。
(3) 波及効果、新たに生じる懸念と対策
① 波及効果
本解決策は「ものづくり」に対する技術伝承だけでなく産業全体に応用できるものである。
② 新たに生じる懸念
従来の技能は師弟関係的に長い時間をかけて継承され、その継承過程で改善や付加価値が生まれ、企業の強みとなったと考えられる。しかしながら解決策では、背景の異なる多様な人材に対し形式化した教育と作業の標準化により育成するため、技能改善や付加価値創造の機会を失う可能施がある。
③ 新たに生じる懸念への対応
形式化した教育と作業の標準化による育成を原因とする付加価値創造機会の喪失の対策としては、作業者の気付きを標準化された作業に反映し改善する仕組みつくりが必要である。例えば、作業者、熟練技能者、設計者、開発者が参加する定期的なミーティングにより作業者からの改善提案や提案から生まれる付加価値の可能性などについて議論することが有効である。
(4) 業務遂行における必要要件
今後さらにシニア、女性、外国人労働者など人材の多様化が進むものと考えられる。技術継承と人材育成のために、多様な人材の製造業分野への定着が重要であり、労働者の国籍、宗教、生活環境などを考慮した働き方を労働者とともに構築していくことが必要である。
■この問題については本講座では、スライドを作成して解説しています。
Ⅱ−2−1
社会インフラの老朽化が深刻な問題となる中で,流体機器の更新時には既存の設備に合わせた提案を要求される場合が多い。あなたは1980年以前に作られた流体機器更新の担当責任者として,既存の設備を有効利用することによりコストを抑えて作業を進めることになった。対象とする流体機器を挙げ,下記の内容について説明せよ。 ただし,原動機,電動機については考えなくてよい。
(1)対象とする機器について簡潔に説明するとともに,調査,検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順について,留意するべき点,工夫を要する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的,効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
残念ながら一般的な設備改修手続きを書かれています。
この問題の前提があってもなくてもこのようなことは言えます。
逆に言うと出題者が示した試験問題としての要件が読み取れていないということです。
下の要望に応えないと、答案になりません。
- 社会インフラの老朽化が深刻な問題となっている。
- 流体機器の更新時には既存の設備に合わせた提案を要求される場合が多い。
- 1980年以前に作られた流体機器更新。
- 既存の設備を有効利用することによりコストを抑えること。
- 原動機,電動機については考えない。
- 事前に調査する事項は何か。それをもとに検討する事項は何か。
(1)対象とする流体機器と調査、検討すべき事項
①対象とする流体機器
対象は発電所の補機(ポンプ、冷凍機、熱交換器)に冷却水として水を供給するための補器冷却水給水系の更新とする。給水系は2系統あり、それぞれポンプ、配管、弁、流量計、圧力計で構成されている。
②調査、検討すべき事項
a)既存設備・機器の現状の調査
構成機器のうち更新すべき機器の選定を目的として機器の仕様、運転データ、劣化程度を調査する。
b)更新の費用と効果の検討
顧客への設備更新費用の妥当性の提示を目的として、更新の費用および効果の定量化(効果は貨幣価値への変換)を検討する。
c)他系統への影響検討
補機冷却水系の更新作業によって他系統に冷却水が供給されない場合の影響と対策を検討する。
(2) 業務を進める手順と留意点、工夫を要する点
①業務を進める手順
業務を進める手順は以下のようになる。
手順:1. 既存設備・機器の仕様、運転データの調査→2.既存設備の劣化診断→3.更新機器の選定→4.更新の費用と効果の検討→5. 他系統への影響検討→6.施工→7.試運転→8.検収
②留意点と工夫を要する点
a)手順2.の既存設備の劣化診断について
ポンプの羽根車、流量調節弁、にはキャビテーションによる壊食が発生する場合があるため分解点検する。必要に応じて浸透探傷検査などの非破壊検査により損傷範囲を確認し交換・補修を判断する。
b)手順3.の更新機器の選定について
更新機器は機器の重要度を考慮して選定する。一般的に給水系ではポンプ、流量調節弁、配管の重要度が高く更新が優先されると考える。2系統有する場合はコスト低減のための工夫として、劣化状況も考慮し1系統運転でもう一方の系統の更新時期を延期すことなども検討する。
c)手順5.他系統への影響検討について
更新作業によって他系統の作業に支障がでる場合は、仮設設備を準備するなどの工夫をする。
(3) 関係者との調整方策
①顧客との調整:劣化診断により壊食等が確認された場合には、系統の圧力や振動の監視強化を提案する。このことが、更新後の機器の保証や安定運転に資する。
②機器メーカーとの調整:ポンプ、バルブ等の更新機器について、交換と補修の場合のコスト比較を依頼し、コスト抑制を図る。
③施工部門との調整:施工部門への作業進捗確認により、工程遅延可能性の早期把握と回避を図る。
Ⅲ−2
人工知能(AI)の技術の応用が多方面で実用化されっつある。流体を扱う様々な機器システムに対しても,「設計」や「計測」,「制御」,「運転監視」の目的に,機械学習を使った人工知能(AI)を応用することで,従来の限界を超えるブレイクスルーになることが期待される。この応用方法を考案する技術者として,以下の問いに答えよ。
(1)具体的な流体機器若しくは流体機器を主機としたシステムを1つ挙げ,その目的を上記の4つの中から1つ選び,技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうちあなたが最も重要と考える課題を1つ選択し,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(1) 流体機器に対するAI利用の目的
流体機器はスプレードライ装置とし、スプレードライの設計にAIを活用することとする。流体機器はスプレードライ装置とし、スプレードライの設計にAIを活用することとする。
■スプレードライのどこが「流体」なのか、肝心の要件を定義するようにしましょう。
機器の設計は一般的に、仕様策定、概念設計、基本設計、詳細設計、試作・試験の工程からなる。流体機器の基本設計の段階では最適化や検証のためにCFDを活用することが多い。一般的にCFDは以下のような手順で実施される。
解析仕様の確認→形状の作成または設計部門から入手→格子作成、解析条件入力→境界条件入力→解析の実行→結果の確認
ここでは、人による解析仕様および形状の入力後の手順がAIで実施され、最終的に顧客仕様に基づく結果の表示が得られるようなCFDシステムを構築する場合の課題の抽出および分析をする。
■解答で取り上げていることは、「流体」の本質的問題ではなく、解析手段であるCFDの手法が主題となっています。
求められているのは、人工知能(AI)技術を、流体機器に応用し、従来の限界を超える応用方法を考案することです。
しかも、「機械学習を使った人工知能(AI)」です。
AI技術が多方面で実用化されているのでその経験が問われています。
(2) 多面的な観点からの課題抽出と分析
教師データの確保
格子作成を例とした場合、熟練者なみの精度よいメッシュをAIで作成するには教師データとして多量の熟練者の作成したメッシュが必要である。しかしながら、高齢化などで熟練者が不足すると教師データが収集できないことが想定される、そのため教師データの確保が課題となる。
② 計算品質の確保
AIの開発過程における誤った学習や教師データの不足等からAIが不適切な解析条件、境界条件を入力し不適切な解析結果を表示してしまうことが想定される。そのため、AIを用いたCFDの計算品質の確保が課題となる。
③ 開発コストの低減
AIに膨大な学習計算をさせる必要があるため開発期間の長期化、開発費用の高コスト化することが想定される。そのため、開発コストの低減が課題となる。
(3) 抽出した重要課題と複数の解決策
抽出した重要課題
分析した課題の中で「計算品質の確保」が最重要であると判断した。AIを用いることで、必ずしも高度の力学および計算科学などに通じているわけではない一般の設計者がCFDを活用できるようになることが期待されるため、計算品質の確保が重要であると考えた。
② 重要課題に対する解決策
a)人を介在させることを明記した解析手順の作成
解析部門で解析手順を作成し、解析手順の中に人による解析の検証と妥当性確認を実施と時期を明記することで、AIを用いたCFDの計算品質の確保につながると考える。
b) 解析の検証の実施
解析の検証において人により以下の事前検証と解析結果の検証を行うことで、AIを用いたCFDの計算品質の確保につながると考える。
事前検証:入力データの整合性確認を行うとともに、予備計算を行って、正しく入力データが作成されていることを確認する
解析結果の検証:各種収束指標の傾向や質量保存性などを確認し計画した解析が正しく行われたことを確認する
c)解析の妥当性確認
解析の妥当性確認において人により、理論解などによる手計算結果との比較、代替解析との比較、実験あるいは実機の挙動との比較などを行うことで、AIを用いたCFDの計算品質の確保につながると考える。
(3) 解決策の共通リスクと対策
解決策の共通リスク
上記3つの解決策はAIによる解析作業の確認、解析モデルの検証、解析結果の妥当性確認が人によって行われるため人の力量不足により解決策が機能しないというリスクが考えられる。
② 共通リスクへの対応
対策としてはシミュレーション作業に携わる要員の力量の管理が有効である。具体的な力量管理の方法としては日本機械学会で実施されているような計算力学技術者資格認定などを活用し、AIおよび人の技量認定をすることなどが考えられる。