R1年 機械部門、熱・動力エネルギー機器の答案について添削致しました。 20210114
この過去問答案の答案Ⅰの評価はBという残念な結果だったということです。しかも7年挑戦されているにもかかわらず克服できないでいらっしゃったそうです。大事なことは機械部門、熱・動力エネルギー機器の技術応用で解決策を示すことでが、しかし、機械部門以外の技術に発散しているようです。しかし、それぞれ改善点は見えていますのでコメントいたします。ここではB、CをAにするにはどうするか。AをAのまま維持するにはどうすべきかを申し上げます。本研究所ではコーチング形式で応用力を高める練習をしておりますので、この指導によって誰でも改善可能です。このような惜しい答案の方には、是非お勧めいたします。
音声ガイドによるコーチング指導内容(31分41秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-2
2018年7月に発表されたエネルギー基本計画の中では, 2030年に向けた政策対応の1つとして,「徹底した省エネルギー社会の実現」が取り上げられており,業務・家庭部門における省エネルギーの強化,運輸部門における多様な省エネルギー対策の推進,産業部門等における省エネルギーの加速,について記述されている。我が国のエネルギー消費効率は1970年代の石油危機以降,官民の努力により4割改善し,世界的にも最高水準にある。石油危機を契機として1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」では,各部門においてエネルギーの使用が多い事業者に対し,毎年度,省エネルギー対策の取組状況やエネルギー消費効率の改善状況を政府に報告することを義務付けるなど,省エネルギーの取組を促す枠組みを構築してきた。また, 2013年に省エネ法が改正され, 2014年4月から需要サイドにおける電力需要の平準化に資する取組を省エネルギーの評価において勘案する措置が講じられるようになった。このような社会の状況を考慮して,以下の問いに答えよ。
(1)徹底した省エネルギー社会の実現に向けて,あなたの専門分野だけでなく機械技術全体にわたる多面的な観点から,業務・家庭,運輸,産業のうち,2つの部門を選んで今後取組むべき技術課題を抽出し,その内容を観点とともに示せ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)上記すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
(4)業務遂行において必要な要件を機械技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から述べよ。
徹底した省エネルギー社会の実現
「業務・家庭」と「産業」ですから課題は同じになりません。
(1)業務・産業部門における徹底した省エネルギー社会実現に向けた課題
業務・産業部門において、徹底した省エネルギー社会を実現するためには、生産性向上が必須であり、以下にその課題を示す
■大雑把な話にならないようにしましょう。
(1-1)団塊の世代のベテラン社員引退による生産能力の低下
団塊の世代が引退する時代となっている。一方、バブル崩壊後の雇用規制による中間層が極端に少ない社員構成のなか、会社の生産能力は低下している。
■省エネ社会の実現に向けて、機械・動力エネ技術士にふさわしい課題になるようにしましょう。
(1-2)若手社員の育成
ゆとり教育のなかで育った若手社員を、いかに効率的に教育するかが課題である。
(1-3)総労働時間の抑制
これまでは長時間労働により製品・成果品の納期を遵守していた感は否めないが、働き方改革による総労働時間が抑制されている昨今は、長時間労働による納期遵守が難しくなっていきている。
(1-4)デジタル技術の活用
AI、IoT、データサイエンス等のIT技術をはじめとした専門家が必要となる。また、既存業務や既存作業を単独の技術を用いて改善することは難しく、異分野との橋渡しとなる工学人材が必要である。
(2)最も重要な課題と解決策
最も重要な課題に「(1-4)デジタル技術の活用」を挙げ、その解決策を以下に示す。
(2-1)デジタル人材の確保
AI、IoT、データサイエンスなどIT技術を含む専門家を中途採用などにより迎えたり、専門の派けん会社を通じて紹介してもらうことによりデジタル人材を確保する。
■一般の見識の解答に留まっています。機械部門・動力エネ科目と関係がある内容を提案しましょう。
(2-2)デジタル人材の育成
特定の社員を抜てきし、専門の講習等を受講させることでデジタル人材を育成する。
(2-3)ハードウエアソフトウエアの環境の整備
(2-1)、(2-2)の他、デジタル技術活用のためには、高性能なコンピュータやソフトウエアの開発が必要であるため、ハードウエア、ソフトウエアの環境を整備する。
(3)波及効果と懸案事項への対応策
解決策を実行した上で生じる波及効果と懸案事項への対応策を以下に示す。
(3-1)波及効果
(3-1-1)暗黙知から形式知への転換による標準化
デジタル技術を用いて既存業務や既存作業を改善する際、これまで注目されなかった業務・作業が見える化される。これにより、暗黙知から形式知への転換が図られ、標準化が易容になる。
(3-1-2)全体最適化
これまでは部所ごとの個別最適が主だったが、デジタル技術の活用は全社大で対応する必要があり、会社全体の全体最適化が可能となる。
(3-2)懸案事項への対応策
(3-2-1)デジタル人材の流出
デジタル人材は引く手あまたであり、人材の流出が懸案である。この対応策として、しょぐうや人事制度の抜本的な見直しが挙げられる。
(3-2-2)データの持ち出し
引き抜かれたデジタル人材が、機密情報を持ち逃げすることも懸案である。この対応策として、簡単に持ち出せないように社内システムを構築する必要がある。
(4)業務遂行において必要な要件
機密情報を含む情報漏洩をしないため、情報管理の徹底を行う。
また、SDGs(持続可能な開発目標)では温室効果ガス排出量削減を目指しており、デジタル技術の活用によりCO2排出量が増加しないことを確認する必要がある
本講座ではこのような細かい対照法について具体的に添削指導しています。
Ⅱ−1−1
蒸気圧縮式冷凍サイクルの単段冷凍サイクルの各機器の構成と作動原理を説明するとともに,理論冷凍成績係数を比エンタルピーhを用いて示せ。
冷凍サイクルの機器構成・作動原理・成績係数
<冷凍サイクルの機器構成・作動原理>
蒸気圧縮式冷凍サイクルの単段冷凍サイクルの各機器の構成と作動原理を、図1、図2とともに以下に示す。
図1 機器構成
図2 P-h線図
①→②:フロン等の冷媒が圧縮機により圧縮され、高温高圧となる。
②→③:高温高圧の冷媒が凝縮器により凝縮し、高温側に熱Q出を排出する。
③→④:膨張弁により冷媒が膨張し、低温低圧になる。
④→①:低温低圧の冷媒が蒸発器により蒸発する際、低温側から熱Q入を奪う。以上①〜④を繰り返すことで、低温側から高温側へ熱をくみ上げている。
<理論冷凍成績係数>
図2の①〜④での比エンタルピーをh1〜h4とすると、理論冷凍成績係数(COP)は以下で示される。
COP=(h1-h4)/(h2-h1)
■説明がやや冗長になっています。
それぞれ見識が十分かどうかを確かめるための要求であって、詳しい解説は不要になります。
ここは、主戦場ではないので楽に考えて力を温存すると宜しいでしょう。
蒸気圧縮式冷凍サイクルの単段冷凍サイクルの各機器の構成
作動原理の説明
理論冷凍成績係数を比エンタルピーhを用いて示す。
これら3つに端的に応えれば良い解答になります。
Ⅱ−2−1
近年,非常時のエネルギー供給の確保やエネルギーの効率的利用の観点から,分散型エネルギーの導入が求められている。あなたが,地域に賦存する再生可能エネルギー及びコージェネレーションシステムを活用した,分散型エネルギーシステムによる地域向け熱電供給事業を検討する技術責任者に任命されたと想定し,下記の内容について記述せよ。
(1)分散型エネルギーの概念及び代表的機器構成を述べた上で,導入に当たって検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順とその際に留意すべき点,工夫を要する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的,効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
分散型エネルギーシステムの熱電併給
(1)分散型エネルギーシステムの概念・代表的機器構成・検討事項
現在の日本は、100万kWの原子力発電所や50万kWの火力発電所等により一括して発電し、電力系統により配電する集中型である。これに対し、分散型エネルギーシステムは、比較的小規模なコジェネ等を地域内に複数台設置し、地産地消を促す概念である。
機器構成を以下に示す。
・機器名:都市ガス焚ガスエンジンコジェネシステム
・機器構成:ガスエンジン、排熱回収ボイラ
■任意に概念を設定して、提案するという性格の問題になってしまっています。
客観的に現状はどうかということを前提に考えてみましょう。
この問題の解説をご覧ください。
検討すべき事項を以下に示す。
①熱電併給設備導入施設の設備構成を把握・検討する。
②熱電併給設備導入施設の電気・熱需要を検討する。
③熱電併給設備の設置スペースを検討する。
④熱電併給設備の新設に必要な各種法令を検討する。
この答案では1の課題はともかく、2の検討、3の調整が評価されたのだと思います。
今一度、冷静に解答を考えてみると良いでしょう。
(2)業務を進める手順
業務を進める手順を以下に示す。
(2-1)コジェネの設備容量の検討
施設の電気・熱需要から、時間負荷、日負荷、月負荷、年負荷を把握するほか、負荷の時間変動や季節変動をふまえたうえで、コジェネ設備の容量を検討する。
(2-2)電気設備の設計
電気設備の設計基準にもとづき、保護システムを含む電気設備の設計を行う。
(2-3)排熱の設計
コジェネからは電気のほか、高温の温水が排熱として発生する。この排熱を利用する設備の選定および排熱利用の優先順位を検討する。熱は、空調設備に利用した後給湯設備に利用する等、熱のカスケード利用を行うことでコジェネの総合効率を向上させることができる。
(2-4)料金体系の整備
コジェネで都市ガスを使用する場合、コジェネを導入していない一般の契約と比べて安価な料金体系であることが多いため、ガス契約の見直しを行う。
(3)調整方策
業務を効率的、効果的に進めるための調整方策を以下に示す。
(3-1)コジェネの運用方法の調整
一般に、夜間は電気・ガス需要が少ないため、夜間のコジェネ停止を含む運用方法の調整を行う。
(3-2)ネルギー安定供給についての調整
コジェネが停止した際にエネルギー供給が途絶えないよう、コジェネの複数台設置、外部電力の購入等を調整する。
また、メンテナンスは、コジェネの突発故障を含めたメンテナンス契約とするよう調整する。
■この解説資料です。
近年、非常時のエネルギー供給の確保やエネルギーの効率的利用の観点から、分散型エネルギーの導入が求められている。つまりこんな具合にです。
地域に賦存する再生可能エネルギー及びコージェネレーションシステムの図
練馬区基本目標より
あなたは、これらを活用した、地域向け熱電供給事業の技術責任者に任命された。
- 分散型エネルギーの概念
- 代表的機器構成 を述べよ。
導入に当たって検討すべき事項は。
・分散型エネルギーの概念及び代表的機器構成
公共施設や大規模建築に付属して、市内に分散して建設され、電気と熱または電気のみを供給している。機器構成はエンジン発電機かボイラー(発電)、または太陽光発電が多い。
・導入に当たって検討すべき事項
電気も熱も検討事項は、供給路と蓄電・蓄熱、需給バランス制御など。
Ⅲ−2
情報化社会の進展に伴い,日本をはじめ世界ではIoT, AI, 5G通信やスマートフォンに代表されるデジタル技術,高速データ通信技術やデジタル利用機器による新しいサービスが次々と生まれ,自動運転技術を用いたモビリディサービスなど,更なる拡大が期待されている。これらの技術やサービスを支える社会インフラの1つがデータセンタであり,温度管理を必要とするデバイスが大量の電力を消費することから,その冷却技術とシステム全体の省エネ技術も重要な技術要素となっている。また,扱うデータ量の増加とともにサーバー1台当たりのデータ処理量も増加している。このような社会状況と背景を踏まえ,技術者として以下の問いに答えよ。
(1)今後のデータセンタ設計に当たって留意すべき技術的事項について,熱・動カエネルギ一分野の技術者の立場で,多面的な観点から課題を抽出し,その内容を観点とともに示せ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行した上で生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
データセンタの設計
(1)データセンタ設計における課題
データセンタ設計における課題を以下に示す。
(1-1)信頼性の向上
データセンタは、大地震、津波、落雷、ゲリラ豪雨を含む降雨、降雪などの自然災害に加え、テロなどの人為的災害においてもサーバ等を停止してはならない。
■施設、事業者の課題になっています。技術士としてこの答案の主題を提案しましょう。
(1-2)省エネルギーの推進△
データセンタではサーバの冷却により大量のエネルギーを消費しており、省エネルギーの推進が課題である。
■間違いではありませんが、常識的に留まっています。答えに相当するには、もっと突っ込んだ専門家の議論にしましょう。
(1-3)再生可能エネルギーの活用
(1-2)に加え、資源がこかつしない再生可能エネルギーの活用も課題となる。
■有効ではありますが、手段の一つに留まっています。ここで議論する話を提案しましょう。
(1-4)デジタル技術活用によるデータ需要増によるデータセンタ設備寸法の長大化
サーバ1台あたりのデータ処理量は増加しているものの、デジタル技術活用によるデータ需要増により、データセンタの設備寸法長大化が発生している。
■必要ではありますが、この答案の主題ではありません。
(1-5)各種法令への対応
データセンタの設計には、消防法など各種法令を遵守する必要がある。
■一般的な内容に留まっています。技術士としてここで議論すべきテーマを挙げましょう。
(2) 最も重要と考える課題と解決策
最も重要と考える課題に「(1-2)省エネルギーの推進」を挙げ、以下にその解決策を示す。
■2はいずれも専門的内容で結構です。細かいことは全然気にすることはありません。大勢に影響しません。
(2-1)サーバ排気排出先とサーバ冷気吸気口の区分け(アイルキャッピング)
サーバの排気と空調冷気がサーバ冷気吸気口の前に混ざると、空調冷気の温度が上昇し、サーバの効率的な冷却ができないことに加え、空調搬送動力が増加してしまう。このため、アイルキャッピングによりサーバ排気排出先と空調冷気が混ざらないようにする。
アイルキャッピングもHP、FCも経験や知識からの単発的な提案となっています。
■単にアイルキャッピングという1つの形式を挙げるのではなく、熱効率を上げるための気流方式の形式として、体系的に提案すると良いでしょう。
(2-2)ヒートパープ(HP)の設置
サーバの熱は主に半導体から発生している。ここに、作動媒体により効果的な徐冷が可能となるHPを設置する。なお、HPの冷熱側にヒートシンクを設け、既設空調で冷却することで、追加費用なしでさらなる効果的な冷却が行える。
(2-3)フリークーリングの導入
外気温の低い中間期や冬季に、空調機器熱源の圧縮機を使用せず、既設冷却塔を用いて冷却するフリークーリングが有効である。なお、類似技術で外気冷房があるが、これは外気を直接データセンタ室内に取り込むものである。室内は静電気、結露が起こらないよう湿度管理をしているほか、粉じんをサーバが吸いこむことによる故障を防ぐため粉塵管理がされており、外気冷房は不向きである。この点、フリークーリングは空調の給排気を循還させているため、温湿度管理および粉じん管理が容易である。
「粉塵がない」ことはフリークーリングの常識であり、言及する必要のないことです。
■留意点としては、もっと必須なことについて提案しましょう。
(3)波及効果と懸案事項への対応策
(3-1)波及効果
省エネルギーの推進により、SDGs(持続可能な開発目標)で目指す温室効果ガス排出抑制に寄与する。また、COP21パリ協定採択により世界的な温室効果ガス排出量削減の需要があるなか、元来化石燃料等の資源に乏しい日本における省エネルギー技術は、世界的に優れている。このため、省エネルギーを推進したデータセンタは世界的な需要があると考えられ、世界的な展開が可能であると私は考える。
■間違いではありませんが、やや話が飛んでいるようです。2の提案について地に足の着いた評価をしましょう。
思いは不要なので、専門家としての提案を述べるようにしましょう。
CO2排出をしたくない海外への展開
(3-2)懸案事項への対応策
設計当初は最適だったものが、後の調査、法改正、技術革新などでちんぷ化するおそれがある。この対応策として、改善策を複数案出したうえで比較・検討・評価し、最適な案を選択する。また、比較検討の検討事項は社内ノウハウとして蓄積し、PDCAを回すことでより良い設計を行っていきたい。 以上
■2の提案とは直接は関係のない一般論に留まっています。
「間違いではない」と考えるかもしれませんが、「この答案の解答ではない」ととらえられますので要注意です。