R2年 建設部門、道路の答案について添削致しました。20201031
この答案Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの評価はすべてAでした。答案の内容については本来は何も申し上げることはないのですが、ここの答案ではまだ改善できるところは見受けられます。今回は良かったですが、油断すると減点される危険性がないとは言えません。こうした出題者が要求する答えの中心について、いつも的確に答えることが楽勝の合格法かと考えます。本講座では無駄な記述を無くすことにより、簡潔な文章で正解の本質を鋭く突く論述をお勧めしています。これをすることによって答えが発散することなく、間違いなく正解にたどり着けるということです。このHPの添削の中では残念ながらすべての正解をお示しすることはできませんが、受講された方に対してはマンツーマン方式で丁寧にご説明しておりますのでご安心ください。
音声ガイドによるコーチング指導内容(31分45秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-2
我が国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、建設後50年以上経過する施設の割合が今後加速度的に高くなる見込みであり、急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。また、高度経済成長期と比べて、我が国の社会・経済情勢も大きく変化している。こうした状況下で、社会インフラの整備によってもたらされる恩恵を次世代へも確実に継承するためには、戦略的なメンテナンスが必要不可欠であることを踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)社会・経済情勢が変化する中、老朽化する社会インフラの戦略的なメンテナンスを推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)〜(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての論理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
■この添削は、合格評価が出る前に、口頭試験対策の一環として行ったため、多少厳しいものとなっています。答案によっては、口頭試験前に対策を要する場合もあるからです。ご了承願います。
社会インフラの戦略的なメンテナンスについて
1.多面的な課題の抽出と分析
(1)いかに人材不足の状況下で維持管理するか
建設就業者の推計では、2023 年までに21万人の人材が不足する。また、地方自治体の土木部門の職員数は、2005年度から2018年度までに約14%減少。この減少は、今後も確実に進行していく。
このため、進行する人材不足の状況下で、いかに維持管理するかが、特に重要な課題の一つである。
■維持管理の問題を指摘するだけでなく、その解決方向について方針を示すようにするとさらに良くなるでしょう。
(2)いかにメンテナンスコストを抑えるか
高度成長期以降、大量に建設された社会資本の老朽化が進行。例えば、72万橋ある道路橋では、2033年に63%が建設後50年以上を経過し、維持・更新が必要。
このため、今後増大する維持・更新費の縮減のため、いかにメンテナンスコストを抑えるかが課題である。
(3)いかに維持・更新の優先順位を付けるか
建設工事費に占める維持・修繕工事費の割合は増加傾向にあり、2017年度は約30%。今後も老朽化対策や耐震化等により、財政需要が一層高まる。
このため、建設部門の限られた財源の中で、いかに維持・更新の優先順位を付けるかが課題である。
2.最も重要な課題
前述より、進行する人口減少を踏まえ、(1)いかに人材不足の状況下で維持管理するかを最も重要な課題として選び、以下に解決策を述べる。
3.解決策
(1)予防保全への転換
■解決策は「予防保全」の1つだけでなく、他にも挙げてみましょう。内容的にも具体性に述べましょう。
これまでの「事後保全」は、損傷や劣化が著しく、補修の設計や施工が大がかりであった。このため、早めにこまめに補修し、構造物の寿命を延ばす「予防保全」に転換する。計画的に維持・更新することで、施工の平準化が図られる。
また、予防保全に切り替えることで、維持・更新費の将来推計については、2018年から30年間で3割削減できる。
(2)新技術の活用
新技術を活用して、維持・更新の高度化・効率化を図る。例えば、近年進歩が著しいドローン等に、小型カメラを搭載する。その画像を近接目視点検に代替えする。
■一言で新技術だけでは表現しきれないことを理解しましょう。ドローンの一例ではなく、汎用的な広い視点での対応姿勢を表現しましょう。
また、測量・調査から設計、施工、維持管理に至る建設生産プロセス全体で得られたデータを集約・共有・活用し、効率性等を高める。
(3)地方自治体間の連携や国による支援
「道路や河川の維持管理を包括的民間委託」や「都道府県と市区町村の業務を共同発注」等により、契約から施工管理・検査までの合理化を図る。
また、国から地方自治体への技術者派遣等、人的支援を行う。さらに、産学官民の技術や知識を総動員する体制を強化する。
■産学官民では他力本願的な印象を与えますので、具体的な社会ニーズをとらえたビジネスとして成立しやすい提案をしましょう。
4.新たに生じうるリスクとその対策
維持管理の高度化・効率化等により、人材不足を上回る生産性の向上が図られる効果がある。
(1)リスク
防災・減災対策等の社会資本整備を進めることで、今後も維持管理の負担は増え続けるリスクがある。
■提案内容に由来するリスクを答えるようにしましょう。
(2)対策
今後、新たな構造物は、維持管理の負担が減るよう設計段階から考慮する。例えば、エポキシ樹脂塗装鉄筋を使用した高耐久対策の桟橋上部工等、フロントローディングにより事業を進める。
また、測量・調査から維持管理までICT技術を活用する。i-Constructionの推進により効率化を図る。
5.業務遂行に当たり必要となる要件
(1)技術者倫理の観点
■予防保全に「損傷による公衆への危害を防ぐ効果」まであるかどうか疑問です。
また、ここは提案内容の遂行をただ単に効率的にするのではなく、2つの観点を高めるものです。1の解答は提案内容の結果の効果になっているので、自身が遂行する上での要件を答えるようにしましょう。
損傷してから措置する事後保全と異なり、予防保全は、損傷による公衆への危害を防ぐ効果もある。これは、公衆の安全の最優先に相当し、「公衆の利益の優先」技術士倫理綱領第一条に適合する。
(2)社会の持続可能性の観点
新技術の活用・高度化で、誰もが安全に使えるシステムを備え、若手・女性技術者、外国人労働者の就労を促す。これにより、全労働者に安全・安心な労働環境の提供が可能となる。これは、SDGsの8.8「あらゆる人々の活躍の推進」に該当する。
■流れは良いですが、新技術でどうして、若手・女性となるのか、その根拠を明確にするようにしましょう。SDGsの8.8と根拠を示したのは素晴らしいです。
Ⅱ−1−2
令和 2 年 5 月の道路法改正により創設された歩行者利便増進道路の概要を述ベよ。また,それにより期待される効果を説明せよ。
1.歩行者利便増進道路の概要
都市部の道路では、バイパスの整備等により、自動車交通量が減少してきている。一方、コンパクトシティの進展等により、歩行者交通量の増加が生じている。このため、歩行者を中心とした道路空間の再構築が必要な状況にある。
■概要とは、意味、ねらい、しくみなど簡潔に述べるようにしましょう。
見識のチェックが行われますのでここでは求められている「効果」が主体となるように書くとよいでしょう。
これまで、運用上の対応として、京都市の四条通や仙台市の青葉通等、賑わい空間の創出に取り組んでいる事例もある。しかし、道路法上は、あくまで歩道等であり、「賑わいを目的とした空間」の位置付けがなかった。このため、警察等の関係機関との調整・協議に苦慮する等の課題があった。
その解決策として、歩行者利便増進道路が制度化された。この制度は、歩行者の安全かつ円滑な通行及び利便の増進を図り、快適な生活環境の確保と地域の活力の創造に資する道路を道路管理者が指定する。
2.歩行者利便増進道路により期待される効果
歩行者利便増進道路は、地域を豊かにする歩行者中心の道路空間を構築する道路を指定する。指定道路では、歩道等の中に歩行者の滞留・賑わい空間を整備することが可能となる。
■道路の指定や↓下記のような付随的効果が主体となっております。出題者が求めている「効果」を力説するようにしましょう。
さらに、カフェやベンチの設置等、無余地性に関する占用基準を除外される。また、最長20年の占用が可能で、多額の初期投資が必要な物件も設置しやすくなる。
Ⅱ−2−2
道路の地下空間には様々な占用物件が埋設されているが,近年,占用物件の老朽化に起因する路面陥没や上水道の断水といった事象が発生し,問題となっている。これらの事象を踏まえ,市街地での舗装修繕工事の計画を立案し実施する担当責任者として,下記の内容について記述せよ。
(1)調査・検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順と,その際に留意すべき点,工夫を要する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的・効果的に進めるための,関係者との調整方策について述べよ。
老朽化した占用物件を考慮した舗装修繕計画・工事
1.調査、検討すべき事項とその内容
(1)調査事項
①舗装
舗装の健全度について、路面性状調査により舗装の平坦性やひび割れ、わだち堀れを調べる。
②■占用物件のことではなく、主体である舗装修繕のことについて調べるようにしましょう。
地下占用物件の経年状況や修繕・更新計画について、各占用物件管理者に照会する。
(2)検討事項
①舗装
路面性状調査により得たMCI(維持管理指数)に基づき、舗装修繕を行う路線の優先度を検討する。
②占用物件
各地下占用物件の修繕・更新計画を重ね合わせ、路線毎に掘り返し予定時期をまとめる。
2.業務を進める手順および留意点と工夫
(1)調査、分析
①舗装
限られた予算の中で、効果的な調査を行うため、重要物流道路や主要幹線道路等、重交通量が多く舗装疲労が起きやすい路線を優先するよう留意する。
■一般的原則に留まっています。具体的な舗装改善の方法を提案しましょう。
②占用物件
各占用物件管理者からの回答は、道路台帳システムにデータを追加してもらうよう工夫する。各占用物件を一元的に管理でき、効率的だからである。
■「手順」の説明を優先するようにしましょう。
(2)検討
MCI等により舗装修繕計画を検討する。この時、占用物件の掘り返し時期と比べ、舗装修繕後まもない掘り返しにならないよう留意する。
(3)工事
各占用物件の修繕・更新工事を先行させる場合、工期短縮を図るため、共同施工となるよう工夫する。
■主題と関係が高いことに集中した議論をするようにしましょう。
(4)効果検証と改善
MCIの予測値と経年の実査値を比較・評価し、実査値が著しく低い場合は、修繕を前倒すよう改善する。
3.関係者との調整方策
(1)交通管理者との協議
工事中の交通規制形態について、分かりやすい資料を準備し、綿密に協議を行う。
(2)各占用物件管理者との協議
舗装修繕計画を提示し、舗装修繕後の掘り返し禁止を周知・徹底させる。
■分かり易い資料、常識レベルではなく、業者間の難問を解く技術的提案をするようにしましょう。プロマネの経験を表すと良いでしょう。
■末尾の「以上」は多くの方々が記載されていますが、無くて構いません。
以上
Ⅲ−2
甚大な被害をもたらした東日本大震災から9年が経過したが,その後も,大きな地震や集中的な豪雨,豪雪による甚大な災害が発生しており,また今後も首都直下地震や南海トラフ巨大地震が高い確率で発生することが予想されてい。るこのような状況を踏まえ,道路の防災対策に携わる技術者として,以下の問に答えよ。
(1)激甚化・頻発化する災害に備え,道路が発災時に救命救急・復旧活動や広域的な物資の輸送等に貢献し続けるため,技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し,その内容を観点とともに示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行した上で生じる波及効果と,新たな懸案事項への対策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。
激甚化・頻発化する災害に備えた道路の防災対策
1.多面的な課題の抽出と分析
(1)いかに大規模災害時に機能を保持させるか
近年、相次ぐ大規模災害で、緊急輸送道路の橋梁等が損壊し、通行止めが発生。迅速で円滑な救援物資の輸送等に支障が生じている。
問題の指摘だけでなく、解決方向の議論をするようにしましょう。
このため、大規模災害時において、いかに道路機能を保持させるかが重要な課題である。
(2)いかに日頃から維持管理するか
高度成長期以降、大量に建設された道路橋の老朽化が進行。約72万橋のうち、2033年に63%が建設後50年以上を経過し、今後、維持更新が必要となる。
このため、多くの老朽化した橋等の道路施設を、いかに日頃から維持管理するかが課題である。
(3)いかに防災対策の優先順位を付けるか
道路工事費に占める維持・修繕工事費の割合は増加傾向にある。今後の老朽化対策や耐震化等により、財政需要が一層高まる。
このため、限られた道路予算の中で、いかに防災対策の優先順位を付けるかが課題である。
2.最も重要な課題
前述より、(1)いかに大規模災害時に機能を保持させるかを最も重要な課題として取り上げる。なぜなら、道路は大災害時の生命線になるからである。その解決策を次に述べる。
3.解決策
(1)リダンダンシー(多重性)の確保
東日本大震災では、被災により太平洋側の高速道路が通行止め。その代替えに、日本海側の幹線道路網が、物資輸送等の機能を果たした。このことを踏まえ、次により高速道路等の多重性確保を図る。
① 高速道路のミッシングリンク解消
費用対効果分析に防災・減災効果を盛り込み、未整備区間約2,100kmを早期に整備する。
■予算制約のあるので、コストダウンしながら実現する提案をすると良いでしょう。
②新たな広域道路ネットワークの整備
高速道路を補完する新たな広域道路網を定め、早期に整備を進める。
(2)道路の耐震対策
大規模地震時には、道路橋等の損壊を防ぎ、物資等の輸送ルートを確保する必要がある。このことを踏まえ、次により緊急輸送道路を優先して、耐震化を図る。
①橋梁の耐震化
レベル2地震動でも、通行機能を保持するため、落橋防止装置の設置やロッキング橋脚の補強、支承の補強・交換等、橋梁の耐震化を進める。
② 無電柱化
地震や強風で電柱が道路に倒壊するリスクを排除すため、電線等を地中化し、無電柱化を図る。
■無電柱化は防災になりますが、その逆は論理的に無理があります。無電柱化のコストを考えてみましょう。
(3)防災機能の強化
東日本大震災復興のかさ上げ道路は、通行機能のほか、津波防御の機能を付加。このことを踏まえ、次により「賢く投資」し、ストック効果を高める。
■前置きは不要です。単刀直入に必要な事項を書くようにしましょう。
①沿岸部の盛土形式での道路整備
盛土形式の道路により、大規模な津波や高潮に対する堤防機能を持たせる。法尻等を補強し、津波による法面流出等の被災を予防しておく。
②防災機能を持つ「道の駅」の整備
救援物資の中継・分配機能や災害医療支援機能等を併せ持つ、「防災道の駅」を整備する。
4.波及効果と新たな懸念事項および対策
(1)波及効果
発災時の多重性の確保や耐震対策、防災機能の強化により、道路の耐災害性が高まる効果がある。
■分かり易い話なので、技術士の分析とは考えにくいです。波及とは水に投げた石で輪を描いて波が広がるように、物事の影響が一点から段々に他に及ぶことであり、ここではそのように発展的な推論が求められています。
(2)懸念事項
防災対策のための新たな整備により、将来的な維持管理の負担が増大するリスクが生じる。
■材料の方策と計画法では、論理的に飛躍がありますので、因果関係がわかるように地道な説明をしてください。
(3)対策
新たな構造物は、維持管理の負担が減るよう設計段階から考慮する。例えば、エポキシ樹脂塗装鉄筋を使用した高耐久対策の橋梁上部工等、フロントローディングにより事業を進める。
また、測量から維持管理までの全てのプロセスで、ICT技術を活用する。i-Constructionの推進により、人材不足を上回る生産性向上を図るとともに、トータルコストを抑える。 以上
■ICT、i-Constructionだけでは情報工学の提案ですので、専門外になる危険があります。建設部門 道路の技術提案で中身の議論をするようにしましょう。