R2年 建設部門、鋼構造及びコンクリートの答案について添削致しました。 20201010
この試験答案の評価はわかりませんが、不合格という結果でした。その理由としてⅢでBIM/CIMについて具体的な提案ができていなかったことがあげられます。敗因について「専門知識の不足」を挙げる方がたくさんいらっしゃいます。しかし、技術士試験の答案の通りの知識をあらかじめ暗記しておくなどということは無理です。この問題のテーマBIM/CIMはスパーゼネコンや大手設計などが手掛けていますが、そのほかではまだ実施されていません。先進的な問題でした。技術士としての「技術応用」するには経験業務から選ぶ必要があります。おそらくこの方もⅢ-1ではなくⅢ-2(性能規定)を選択されたら具体的に提案が可能だったかと思います。このような対応力は練習を重ねていけば、身につけられます。実際、講座の受講生様でそのように問題を変えられて正解されている方もいらっしゃいます。本研究所ではコーチング形式で応用力を高める練習をしておりますので、このようにどこがいけないかわからない、どう書いたら正解できるかわからない方に是非お勧めいたします。
音声ガイドによるコーチング指導内容(30分22秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-2
我が国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、建設後50年以上経過する施設の割合が今後加速度的に高くなる見込みであり、急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。また、高度経済成長期と比べて、我が国の社会・経済情勢も大きく変化している。こうした状況下で、社会インフラの整備によってもたらされる恩恵を次世代へも確実に継承するためには、戦略的なメンテナンスが必要不可欠であることを踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)社会・経済情勢が変化する中、老朽化する社会インフラの戦略的なメンテナンスを推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)〜(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての論理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
(1)戦略的なメンテナンスを推進するための課題
①施設管理者の人材不足
地方公共団体では、管理者の人材不足が深刻化している。地方公共団体では、現状、少人数で対応している、他の業務を兼任している等、維持管理に割ける時間は極めて少ない。さらに技術者に関しては、もっと少なく、0人の自治体もある。人材不足により、適切な維持管理が行えなくなり、重大な事故につながる危険性がある。このように人材の観点から、施設管理者の人材不足が課題である。
■自治体の問題ではないので、建設部門全体の視点でとらえたほうが良いでしょう。
問題文で「戦略的なメンテナンスが必要不可」とまで指摘されていますから、その先を考えてみましょう。
後戻りして消極的印象を与えないようにしましょう。
②メンテナンス費用の増大
現在の維持管理の体制を継続した場合、メンテナンス対策費用は、20年後には現在の約1.5倍まで増大すると予測されている。現在でも厳しい財政状況の中、さらに財政を圧迫するおそれがある。すなわち、財政の観点から、メンテナンス費用の増大が課題である。
■費用の件は明白です。自治体の予算措置だけの話にとどめないようにしましょう。
どうやって安くするかを課題とします。
③技術力の低下
技術の細分化や専門化が進行し、さらに業務多忙により、外部に業務委託する傾向にある。外部委託により、作業の効率化は図られるが、本質を理解しないまま、外注先から挙がってきた結果を鵜呑みにするため、判断力や応用力が低下する。このように技術の観点から、外部委託への依存による技術力の低下が課題である。
■最低限真面目に努力するのが基本です。好ましくない状況を前提としても始まりませんので、技術を高めて維持していくにはどうするのかを課題とするようにしましょう。
(2)最も重要と考える課題と複数の解決策
最も重要な課題として技術力の低下を挙げる。
① 解決策:ICT技術の導入
調査から維持管理までの各段階でICT技術を積極的に導入する。高精度にコントロールすることで、作業の自動化や省力化を図る。さらに今まで熟練技術者の知識や経験に頼っていたことを、ICT技術を活用することによって、若年技術者でも一定の成果を出せるようになる。
■キーワードだけで提案が不明確です。ICTとはつまり何をするのか。
実際に何をするかという考えが見えるようにしましょう。
② 解決策:維持管理データのデータベース化
設計図面や施工記録、点検結果、補修履歴等の膨大なデータを蓄積し、データベース化する。自由に閲覧可能にすることで、技術者の判断を迅速にする。
■「台帳」を作るだけでは何も解決しないので、そのような手段ではなく、解決に至る「方法論」、解決策を示すようにしましょう。「何かちょっとでも役に立てばよい・・」では×になります。
(3)新たに生じるリスクとリスク対応策
①新たに生じるリスク:膨大な導入コスト
ICT技術の導入には莫大なコストがかかる。建設業界の大半が中小企業であり、この初期導入コストが経営を圧迫するリスクもある。さらにシステムの運用や更新にもコストがかかる。
■これは一概には言えません。むしろ最近の普及を見ると逆でしょう。現在普及しているICT技術を使って、可能な方法を提案しましょう。
②リスク対応策:協業によるコスト分担化
同業他社やIT企業、実務を担当する協力会社等と連携し、協業することが有効である。ICT技術の導入に関して、地域及び業界全体で取り組むことで、コストの分担化を図る。さらに技術の発展、操作方法の共有化等にも効果的である。
(4)業務遂行するための必要条件
①技術者倫理の観点:品質確保
必要な要件として、品質確保が挙げられる。メンテナンス需要が増加するが、負担する業務量が増大する。目先の納期を優先し、品質確保が困難となり、不正行為が生まれる危険性もある。そこで倫理教育の導入、社内倫理規定の周知徹底等が重要である。さらに人間による改ざんの余地のない完全な自動化システムの構築等も有効である。
■ここで求められている要件とは、技術士としての基本的な心構えを述べるのではなく、業務を効率化する方法を端的に述べることです。このため2で提案した内容について具体的に項目ごとに述べるようにしましょう。
②社会持続可能性の観点:技術継承
必要な要件として、技術継承が挙げられる。現在の建設業の就業者は、55歳以上が約3割を占め、今後さらに高齢化が進行し、熟練技術者の大量離職が見込まれる。したがって、技術継承の場が得られないまま、若年技術者が取り残される危険性がある。建設技術に関する知識や経験を伝承するため、熟練技術者とのOJTやナレッジマネジメントの導入等が有効である。さらに今後は、建設技術だけでなく、ICT技術にも対応できる技術者の育成が重要である。 ―以上―
■「社会の持続」ではなく、自ら技術者の持続性になっています。
問題を誤解しないようにするために、まずはSDGsについて勉強しましょう。
Ⅱ−1−1
次に示す高性能公より2つ選択し、特徴、利点、適用する際の留意点を述べよ。
① 耐候性鋼 ② 耐火鋼
② クラット鋼 ④ 低温用ニッケル鋼
⑤ ステンレス鋼 ⑥ 低降伏点鋼
⑦ 高HAZじん性鋼 ⑦ 予熱低減鋼
①耐候性鋼
(特徴)
鉄にCr、Ni、Cu等を添加し、耐食性を向上させた鋼材である。適度な乾湿の繰返しにより、緻密な安定錆を形成し、腐食を抑制する。一般環境下では、無塗装仕様で適用できる。
■よく勉強されています。専門分野の見識は十分です
(利点)
塗装塗替え等のメンテナンス費用を低減することができ、ライフサイクルコストの削減につながる。
(適用する際の留意点)
飛来塩分量が0.05mdd以上の場合、適用できない。Niの含有量を多くした高耐候性鋼材が有効である。
②クラッド鋼
(特徴)
母材金属の片面もしくは両面に、異種金属である合せ材を接合する。母材に鋼を使用し、合せ材にはチタン等を使用する。母材は主に強度を受け持ち、合せ材には耐食性や耐摩耗性等を受け持たせる。
(利点)
単一の金属では得られない特性を持たせる。高価な合せ材を必要最小限にすることで、経済的になる。
(適用する際の留意点)
溶接の際は、異種金属の溶接になる。先に母材の溶接を行い、合せ材を溶かさないようにする。合せ材を溶かした場合、割れ等を生じる。
Ⅱ−2−2
既設構造物を使用しながら、改築・増築、又は補修・補強に関する業務を行うこととなった。この業務を鋼構造あるいはコンクリートの技術に関わる担当責任者として進めるに当たり、下記の内容について記述せよ。
(1) 対象とする構造物を1つ挙げ、工事中の既設構造物の使用条件を設定し、業務の内容を明確にした上で、調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2) 業務を進める手順とその際に留意すべき点、工夫を要する点を含めて述べよ。
(3) 業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
鋼構造
(1)構造物、使用条件、業務内容、調査・検討事項
1)対象とする構造物と使用条件
市街地に位置する鋼道路橋とする。大型車の交通量が多く、冬季には凍結防止剤を散布する。
2)業務の内容
定期点検において、著しい腐食が検出されたため、当て板補修を行う。
3)調査・検討事項
①既存資料の整理
設計図面や施工記録、点検結果、補修履歴等の既存資料を調査する。既存資料が充実すると、効率的な補修工事が可能となる。
■必要ではありますが、難しくない話です。技術士の仕事としてあえて書く必要はありません。
それより②が大切です。
②現地状況の確認
現地状況を把握するため、現地踏査を実施する。現地踏査では、既存資料の整合性、周辺環境、損傷の進行性、詳細調査の必要性等を検討する。さらに資材の搬入経路や、足場設置の際に障害となる添架物や落橋防止装置等の有無を確認する。
■腐食、非破壊試験、素地、付着塩分量など、具体的に調査すべき事項があるはず。
それによって対処法が異なってきます。ここでは実務の経験知が問われています。
(2)業務を進める手順
1)詳細調査
点検結果と比べて、腐食が著しく進行していたため、超音波板厚測定を実施する。非破壊試験は、高い精度を求められるため、試験の原理や手法、金属材料に関する十分な知識と経験を持つ有資格者が実施する点に留意する。■ほぼOKです。
2)素地調整
塗膜や錆、塩化物イオン等を除去するため、ブラスト処理を行う。このとき、塩化物イオン等が残留していると、早期に再劣化する点に留意する。ブラスト処理後、電気伝導度法により付着塩分量を測定し、完全に除去されていることを確認する。
3)当て板補修
腐食による断面欠損部分を補うため、当て板補修を行う。接合方法は高力ボルト接合とする。留意点は、ジャッキを用いて、既設部材を無応力状態にした上で接合を行うことである。
(3)関係者との調整方策
現地踏査において、著しい腐食が見られたため、発注者に事前に詳細調査を行うことを提案した。近接する手段として橋梁点検車が必要であったが、発注者は車両規制に伴う交通渋滞を懸念していた。そこで、足場架設に伴う交通規制を併用することで、業務の効率化を図った。安全対策として、足場架設の工区をバリケードで完全に分離し、混在作業や橋梁点検車との接触を防止する。予告看板を設置し、地元住民には工事概要、車両規制時間、迂回路の設置等の案内書を配布することで、周知を図った。 ―以上―
■関係者に対する働きかけは「調整」としては◎です。
しかし施工管理の業務の印象を与え、領域外ととられかねないため、2の「超音波板厚測定、ブラスト処理、当て板補修、高力ボルト接合」の提案内容に由来する効率化の提案を行いましょう。
Ⅲ−1
Ⅲ−1 国土交通省は,調査・測量から設計,施工,検査,維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICT等を活用する「i ―Construction」を推進し,建設現場の生産性を,2025年度までに2割向上させることを目指している。建設業で生産性を低下させている要因の1つとして,2次元の紙の図面で各種作業を進めていることが挙げられることから,建設生産・管理システムでも3次元モデルを利活用することで,全体の効率化・高度化を図る,いわゆるIM/CIMが生産性革命のエンジンとして推進されている。このような 状況を踏まえ,鋼構造あるいはコンクリートに関わる技術者の立場から以下の問いに答えよ。
(1)BIM/CIMの活用により生産性の向上が期待できる業務を1つ挙げよ。また,BIM/CIMを導入してその業務の生産性を向上させるために解決すべき課題を多面的な観点から抽出し,その内容を観点とともに示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前間(2)で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。。
↓本講座では下図のような教材でこの問題の正解を表すヒントを提供しております。
鋼構造
(1)生産性の向上が期待できる業務と課題
1)生産性の向上が期待できる業務
CIMの活用により生産性向上が期待できる業務として、点検・診断等の維持管理が挙げられる。
2)解決すべき課題
①担い手不足
インフラ施設の維持管理には、設計や施工等、幅広い知識や経験が必要とされる。建設現場を熟知し、かつ3Dモデルを作成・活用できるような技術者は極端に少ない。人材の観点から、担い手不足が課題である。
②データ形式の不一致
各社バラバラにCIMを導入すると、使用するソフトによってデータ形式が揃わない。計画から維持管理まで連動させることが重要であるが、データ形式が異なる場合、データを開けない、修正・更新できない等のトラブルが生じる。
初歩的な問題を指摘するだけで、真の課題をとらえていません。
■CIMは、建設の鋼コンの立場から方針と方法論、具体的な提案が要ります。
特に維持管理では、竣工年が古い構造物が多く、3Dモデルでの復元や構造諸元等の属性情報を入力する必要があるが、業務が円滑に進まなくなる。技術的な観点から、データ形式の不一致が課題である。
③莫大な導入コスト
システム構築に関して、ソフトの導入やPC及びネットワークの整備等に莫大なコストがかかる。CIMは、調査から維持管理まで、すべての企業及び技術者が3次元データを連動することで、大きな効果が出る。しかし、これらすべての人がシステムを導入すると、膨大なコストになる。建設業界の大半が中小企業であり、この導入コストが経営を圧迫するおそれがある。さらにシステムの運用や更新にもコストがかかる。企業の経営面の観点から、システム導入コストが課題である。
■解決策を示さずに、問題点を指摘するだけでは、提案力が物足りないと思われてしまいます。「課題」の意味を建設的なものと考える必要があります。
(2)最も重要と考える課題と複数の解決策
最も重要と考える課題として、担い手不足を挙げる。
①解決策:講習会の強化
■わからなければ教えるは分かり易い話なので、技術士の提案としてはやや不足しています。
何を学ぶかの話を提案しましょう。
解決策としては、講習会の強化を挙げる。特にCIMに特化した講習会に参加する。講習会のデータを、社内で参考にすることで、迅速な判断につながります。
②解決策:IT企業との協業
解決策として、CIMに精通したIT企業との協業を挙げる。ネットサポート等を充実させ、いつでもどこでも不明な点は解決することができるようにする。また解決事項は自由に閲覧できるようにすることで、業務の円滑化を図る。
■協業とは技術を提供してもらうだけでは、提案内容として物足りなくなります。
③解決策:発注形態の改善
解決策として、発注形態の改善を挙げる。発注の際に、CIMを導入した場合、評価点を加点する等を行い、CIMの普及を促す。
■無理やりにならないようにしましょう。
(3)新たに生じるリスクとリスク対応策
①新たに生じるリスク:点検・診断能力の欠如
新たに生じるリスクとして、点検・診断能力の欠如を挙げる。技術者は、3次元データの作成に多くの時間と労力を取られる。現場経験は減少し、本質を理解できないため、点検・診断能力が低下するおそれがある。
■内容的には〇です。誤りはありません。
ただし、伝聞、教科書の知識だけでは△ですので、実際に経験されるか、専門的知見を勉強されると、確かなものとなるでしょう。
②リスク対応策:現地OJT、ナレッジマネジメント
熟練技術者と若年技術者がチームを組んで現地点検作業をこなし、熟練技術者の知識や技術を習得する。
■まじめさ、指導力は、試験で評価される可能性はあります。
これらさらに高めると、もっと確かなものとなるでしょう。
さらに熟練技術者の知識や経験を、見やすい形でマニュアル化する。暗黙知を形式知に変換し、社内で参考にすることで、若年技術者でも一定の判断が可能となる。さらに新しい知識や技術の入手等に有効である。
幅広い知識を習得するために、資格取得も有効である。資格取得は、自発的な努力が不可欠である。近年では、資格を取得して終わりではなく、資格を更新する必要がある。更新には、更新試験や講習会が必須となる傾向があり、継続的な自己研鑽につながる。