R2年 建設部門、建設環境の答案について添削致しました。 20201007
この試験答案ⅠⅡⅢの評価は不明です。ただし、出題の趣旨にちゃんと答えられているかどうか、やや疑問が残ります。答案について「書ける」ことが一つの目安となっていますが、合格するには内容で勝負しなければなりません。問題文の意味はわかっても、では何をどこまで書けばよいか、理解しきれていないように拝見いたします。
敗因について「専門知識の不足」を挙げる方がたくさんいらっしゃいます。しかし、技術士試験の答案の通りの知識をあらかじめ暗記しておくなどということは無理です。このⅢ問題の公共工事品確対策は経験と共に合理的に考えることを要する問題でした。このような対応力は練習を重ねていけば、身につけられます。実際、講座の受講生様でそのように問題を変えられて正解されている方もいらっしゃいます。本研究所ではコーチング形式で応用力を高める練習をしておりますので、このようにどこがいけないかわからない、どう書いたら正解できるかわからない方に是非お勧めいたします。
音声ガイドによるコーチング指導内容(30分28秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-2
我が国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、建設後50年以上経過する施設の割合が今後加速的に高くなる見込みであり、急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。また、高度経済成長期と比べて、我が国の社会・経済情勢も大きく変化している。こうした状況下で、社会インフラの整備によってもたらされる恩恵を次世代へも確実に継承するためには、戦略的なメンテナンスが必要不可欠であることを踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 社会・経済情勢が変化する中で、老朽化する社会インフラの戦略的なメンテナンスを推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2) (1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で示した解決策に共通した新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)〜(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
(1) 多面的な観点からの課題と問題
社会インフラの急速な老朽化に関し、例えば道路橋は2050年には約50%以上が老朽化を迎える。そこで我が国のインフラ長寿命化基本計画を踏まえ、以下の課題が挙げられる。
■前置きは不要です
課題①既存社会インフラの効率的な運用・整理:公共事業関係予算は平成9年をピークに4割減少をしている。限られた公的資金を有効活用するために、既存社会インフラの運用の工夫を通じた機能強化や、拡散型都市から都市機能の集約を通じた社会インフラの統廃合が求められる。■問1は良く書けています。
課題②社会インフラの長寿命化:気候変動による自然災害の頻発・激甚化を受け、防災・減災の推進のために社会インフラの長寿命化・耐震化が求められる。
課題③社会インフラの担い手の確保と省人化:少子高齢化により入職者の減少や熟練技術者の退職により、2025年には130万人の需給ギャップが生じる。そのため、ICTやドローンを活用や部材の標準化による作業の省人化や効率化が求められる。また担い手の確保のため、新担い手3法を踏まえ、建設キャリアアップシステムによる評価構築、技術者の週休2日制、工期のダンピング禁止で、魅力的な環境整備が求められる。
(2)最重要課題と解決策
課題②の社会資本の長寿命化が最重要課題と考える。なぜなら、公衆の利益を最優先にするために、自然災害から人命を守り、安全・安心の長期的な確保が重要だからである。そのための解決策を以下に示す。
(2) 解決策
■曖昧にならないように、対策、予防保全とは何かを考えましょう。
解決策1.メンテナンスサイクルの構築:社会資本を計画的に点検・診断し、その結果に基づき適切に措置を行う。また社会インフラの状況や修繕状況を記録し、次期点検・診断等の計画を更新する(図)。また損傷箇所を早期発見する予防保全を行い、ライフサイクルコストの低減・平準化を図る。
■効果までは不要です
これにより、ライフサイクルコストは30年後には約30%以上減少し、維持管理費に充てることができる。
解決策2. フェイルセーフの導入: 維持管理の知見は途上であり、気候変動の予測には不確実性を伴うため、修繕が不十分な恐れがある。
■前置きは不要です
図がかかれていましたが、あまり役に立たないので不要です。
このため、社会インフラの損傷が、直ちに利用者への事故に発展しない設計・修繕である、フェイルセーフを導入する。
■建設部門としての対策とは考えにくいので、具体的にフェイルセーフとは何をすることかを考えましょう。
解決策3.自然災害のハード対策:気候変動による将来の海面水位上昇を見込み、将来の堤防のかさ上げのための基礎荷重の増強を考慮する。また堤防決壊の主因は越水であることから、堤防の法面に遮水シートを被せる他、堤防内部に剛体を入れ、洪水に対し粘り強い堤防へと発展させる。
■良く書けています◎
3.共有リスクと対策
リスク:①県と市町村の技術格差による、不十分な維持管理情報の整備である。多くの市町村では社会インフラの維持管理の台帳が未整備のため、不適切な維持管理対策を実施する恐れがある。②工事中に埋設物への支障や、建設機械の転倒・接触などの公衆災害の恐れがある。
■リスクの意味を誤解しないようにしましょう。
ここは、問2でご自身が提案した「メンテナンスサイクル、フェイルセーフ、洪水対策」の結果として生じるリスクになります。
対策:①情報不足の低減のため、橋梁等の構造物にセンサーを設置し、ひずみや振動の分析から異常検知データを収集する。②土地所有者を通じ埋設物の台帳と設計図を参照し、埋設物の位置を特定する。また工事地盤の地耐力を調整し、建設機械の転倒を回避する。また工事車両の誘導員を配置し、歩行者に注意を行い車両との接触を回避する。
4.必要要件
(1) 技術者倫理の観点:①業務において真実性の確保が求められる。そのため顧客等への社会資本の維持管理に関する説明を行う際には、客観的かつ事実に基づく情報を用いることが求められる。②業務遂行において秘密保持・信用保持が求められる。顧客から知り得た社会資本の情報の外部流出を防ぐため、セキュリティ対策を行う。
(2) 社会の持続可能性の観点:業務には地球環境保全の考慮が求められる。気候変動に対する低炭素社会構築の観点から、メンテナンスサイクルの向上により、効率的な維持管理を通じ、作業に係るエネルギー消費を削減し、CO2排出量を減らす。循環型社会に向けては、環境配慮設計として部材の耐久性向上で廃棄物発生の抑制を行う。(最終行まで書けた。)
■思いや信条、姿勢を書くところではないことを理解しましょう。
問いの意味を取り違えないように気を付けましょう。
Ⅱ−1−1
再生可能エネルギー源を利用した一般的な事業内容を有する発電設備の設置計画がある。この発電設備が存在するとこと、又は供用されることにより、環境の自然的構成要素の良好な状態の保持の点から調査、予測および評価されるべき環境要素がある。
環境影響評価法に基づく手続きを進めることを前提としたとき、計画している「再生可能エネルギー源を利用した発電設備」、「調査、予測および評価されるべき環境要素」、およびその「対策」の組み合わせを2つ挙げ、それぞれの内容を説明せよ。
1. 発電設備1
環境要素A
対策a
2. 発電設備2
環境要素B
対策b
■答えはこのような解答の構成になると思います。
当たり前の知識を単刀直入に聞いています。
それがⅡ-1のねらいですので素直に答えるようにしましょう。
1計画する発電施設
①50MWの事業用太陽光発電施設を想定する 。設置環境は山林部に計画され、近くには農村や一般国道が存在する。
②着床式の沿岸洋上風力発電所を想定する 。対象地は一年を通じ平均毎秒7mの風が吹き、水深30m以内の遠浅の海底地形である。
2.調査、予測、評価すべき環境要素と対策:
①
・山林部斜面の切土による土地の安定性低下が挙げられる。対策は、盛土材料に応じた法面勾配の設定や浅層混合処理工法等で地盤安定化を図る。
・パワーコンディショナーの稼働音が、周辺住民への騒音となる恐れがある。対策は、パワーコンディショナーを出来る限り住宅から引き離すことや、コンテナに収納する。
・太陽光パネルからの反射光のまぶしさが、周辺住民に影響があると予測される場合、アレイの向き・配置を調整する。
②
・工事による水の濁りが発生する恐れがある。対策として、汚濁防止膜の設置や、洗浄済の捨石を使用する。
・工事時の水中音が騒音となる恐れがある。対策は、低騒音の建設機械を使用する。
(実際には2〜3行空白まで埋めた。)
Ⅱ−2−1
環境影響評価法に定める第一事業に当たる海域の公有水面埋立事業が計画されている。対象事業実施区域近傍には、自然干潟や藻場が存在しているものとする。本事業における工事の実施、及び埋立地の存在に掛かる環境影響評価について、方法書以降の手続に掛かる環境への影響に関する調査・予測及び保全措置の検討を担当責任者として進めるに当たり、以下の問に答えよ。
(1) この事業が干潟・藻場に与える環境影響に関して、調査・検討すべき事業とその内容について説明せよ。
(2)方法書以降の手続に沿って業務を進める手順について、留意すべき点、工夫を要する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
(1)調査・検討すべき事項と内容
■この問題では環境影響評価の経験知が問われています。しかし、具体的な対処を求められているのに対して、答えはマニュアルに従った一般論になってしまっています。答えやねらい、事業者としてやるべきことが見えていないように感じます。
■環境影響評価のご経験が全くなければこの解答は無理です。別問題を選択すべきです。
①事業計画の調査および検討:市町村の窓口を通じ、干潟や藻場に関する法規制を調査し、左記への配慮事項を検討する。
②文献調査:環境アセスメントデータベース等を基に、対象区域の干潟における動植物や藻類への環境特性を調査し、配慮事項を検討する。
(2)業務手順と留意点および工夫点
手順1.方法書の作成:環境影響評価の方法を伝えるため、ティアリングから計画段階の配慮事項を踏まえ方法選定し、スコーピングを行う。
・留意点:正確な状況把握のため、最新の文献を収集する。また多様な関係者とのヒアリングでバイアスに対応する。
・工夫点:配慮項目の選定は、市の条例や法規制の参考項目および希少種等の重大な環境影響がある項目を重点的に検討する。
手順2.準備書の作成:環境影響評価の結果を伝えるため、方法書への意見と事業者見解、環境影響評価の結果を公告する。
・留意点:環境影響評価の結果を伝える上で、周辺の海域や付帯施設など事業との関連事項の影響への説明も示す。
・工夫点:環境保全措置に関し、事業区域が閉鎖性海域の場合、リンの分解等の富栄養化対策などに不確実がある場合、影響把握のために事後調査を検討する。
手順3.評価書・報告書の作成:事業実施のため、準備書への意見と事業者見解、および事後調査の必要性の検討を記した評価書を作成する。また事後調査に基づく環境保全状況を示す報告書を作成する。
・留意点:事後調査で干潟の動植物の生息環境の改変が判明した場合、改変期間の短縮を検討する。
・工夫点:事後調査は環境影響評価の結果との比較検討のため、環境影響評価と同じ調査地域・手法を検討する。
(3)関係者との調整方策:
・手順1では、配慮書への意見と事業者見解を方法書に記し、住民へ説明を行う上で、予め住民の懸念事項に応じる。市や専門家を相談し、地域の希少種の保全方法について知見を得る。
■ごく普通のことで、最低限自分でやることにすぎないような気がします。これでは効率化されるまでの改善はむずかしいのでは。
・手順2では、知事への説明には、審議会の答申を活用し議論の背景・根拠を示す。また議事録を関係者で共有する。
・手順3では、県との審査会で、準備書への意見と事業者見解を示す報告書や公聴会資料を基に準備書について議論し、議事録を関係者で共有する。
(実際には最終行まで埋めた。)
Ⅲ−2
問題文:グリーンインフラとは、グリーンインフラ推進戦略(令和元年7月国土交通省)によれば、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能な魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取り組みである。グリーンインフラの特徴と意義は、①機能の多様性、② 多様な主体の参画、③ 時間の経過とともにその機能を発揮するという点にある。これらの点を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)グリーンインフラの取り組みを社会資本整備や土地利用等を進める際の検討プロセスに取り込むに当たって、取り組みを実現する技術者としての立場で、グリーンインフラの特徴と意義を踏まえた多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2)(1)で抽出した課題の内、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
多面的観点からの課題と問題
グリーンインフラを社会資本整備や土地利用に活用
する上で、我が国の環境行動計画等を踏まえ以下の課題が挙げられる。
■前置きは不要です
課題①総合的な知見の担い手確保・体制構築:例えば多自然川づくりの推進において、河川工学・生物学・地域の文化・歴史など多分野の知見が求められる。そのため、総合的な知見を有する人材の確保・育成と共に、多分野の専門家を結びつける調整役が求められる。
課題②突発的な災害への対応力の確保:グリーンインフラで自然環境の機能を生かした防災・減災機能があるが、効果発現までに時間を要する。そのため、気候変動などで自然災害の頻発・激甚化に対し、十分な機能を発揮できない恐れがある。そのため、突発的な自然災害に対する対応力の確保が求められる。
■これはグリーンインフラの課題ではないです。
今回の主題は「①機能の多様性、② 多様な主体の参画、③ 時間の経過とともにその機能を発揮する」です。これに応える課題以外は解答になりません。
課題③景観創出による地域活性化:多自然川づくりや里地里山の維持管理による、美しい自然景観の創出・維持管理が求められる。そのため、自然再生推進法より自然再生協議会を通じ、里山の動植物のモニタリングや在来種の植樹を通じた自然再生が求められる。
2.最重要課題と対策:
・最重要課題は、課題②突発的な災害への対応力の確保と考える。理由は、公衆の利益を最優先にするために、自然災害から人命・資産を守り、かつ社会経験活動を継続するための道路等の社会インフラが不可欠だからである。そのための解決策を以下に示す。
・解決策1.流域治水の推進:①堤防整備による洪水対策と河道の流下能力向上を前提に、②霞堤や水田による遊水機能や、公園緑地での雨水浸透向上による雨水貯留機能の向上を図り、河川や氾濫域も含めた流域治水を行う(図)。また、土砂崩れの原因の1つは山の表層崩壊であることから、里山の間伐による防災林の大径化で、根系発達の促進により地盤安定化や雨水の貯留機能の強化を図る。
・解決策2.人工建造物との組み合わせと環境配慮:気候変動などにより頻発・激甚化する自然災害に対し、防災・減災に関し単一の強い機能を発揮する堤防等の人工建造物とグリーンインフラを組み合わせる。また人工建造物に緑地等により、自然環境の機能を付与する。具体的には、堤防の盛土に海岸防災林を整備し、動植物の生育環境を確保する。また養浜により堤防の基部を砂で被せることで、堤防の長寿命化に寄与し防災能力の向上を図る。これにより、ウミガメの生育環境も確保する。ダムに関しては、ダムの事前放流で洪水調節容量を確保する弾力的管理を行うと共に、フラッシュ放流で勢いのある放流で川底の石のぬめりを除去し、魚の生育環境を改善する。河川では、多自然魚道を整備する他、浚渫を通じ流下能力の向上と共に、汚泥を回収し水質環境の改善を図る。土砂災害には、砂防えん堤整備としてスリットダムで土砂や流木を捕捉する他、緑枠工や山腹に土留や排水工等の山腹工を通じた治山対策を行い、土砂崩れ防止を行う。
3.共通リスクと対策
・共通リスク:
①ダム下流や都市部の水田は、洪水時に遊水地となれば損失を受けるため、遊水地の土地所有者から遊水地受け入れ拒否の恐れがある。
②気候変動の予測には不確実があるため、防災・減災対策が不十分となる恐れがある。
・対策:
① 損失補償について流域関係者間で議論し合意形成
を行い、遊水地受け入れの拒否の回避を図る。
② 気象・地震の観測・予想の高度化を行う。高度化した結果を基に災害リスクを評価し、グリーンインフラの計画の見直しを行い、防災・減災への機能の不十分さを低減する。
(実際には最終行まで埋めた。)