№1 R3年 上下水道部門、上水道及び工業用水道の答案について添削致しました。 2021/07/27
試験結果は、必須科目がB、選択科目がA,Aで残念なことに不合格と評価されました。これまで複数回受験されてこられて、今回の試験では健闘されたと感じております。これなら合格の期待が持てるかもしれないと感じましたが、必須科目での減点が響いたようです。
残念ながらこれまで、指導機関での正式な練習をされてこられなかったせいもあり、問いに対して的確に応えられていない箇所がありました。技術士問題は、ヒントがなく、出題趣旨が難解です。出題者の意図をあいまい程度にしかご理解されていないようなので、実力が十分発揮できずに苦戦されてきた可能性があります。本講座で練習されると、こうした試験のねらいが明解になりますので、コンピテンシーを発揮されて、楽勝で合格できに違いありません。
音声ガイドによるコーチング指導内容(22分53秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-2
問題文 日本の将来人口は、減少していくと予想されている。この人口減少により上下水道事業では、将来水需要の減少に伴う料金収入の減収や職員数の減少が見込まれている。一方、多くの施設は、老朽化が進行しており、更新時期を迎えつつある。このため、こんごも安定して事業を継続していくためには、厳しい財政状況の下で執行体制の省力化を図りながら事業が進められるように上下水道事業の基盤強化を着実に進めていくことが求められている。
(1)上下水道事業に共通する事業基盤強化に関して、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題のないようを示せ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える上下水道に共通する課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)解決策に共通して生じうる新たなリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)業務遂行において、必要な要件を技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
(1) 課題
①執行体制の省力化
観点:ヒト
■人、物、金は考える1つの便法であって、このようなことが技術士試験の目的とは考えにくいです。強調してもあまり意味は薄いでしょう。それより省力化の必要性、課題について本質的内容を訴えるようにしてください。
内容:人口減少により職員数の減少が見込まれるので
上下水道の安全性や強靭性を確保しながら、省
人力化する必要がある。水道工学面の課題がありません。
②老朽化への対応
観点:モノ
内容:多くの施設が老朽化しており、水質ニーズの高まりを踏まえた更新と施設の改善を行う必要がある。また、特定の時期に更新需要が突出して高まることのないよう平準化を考えて対応する必要がある。
■老朽化への対応とはつまり何をすることかイメージする必要があります。老朽化が悪いことは明らかです。しかし老朽化をどう解消するかに対して、水道工学の技術応用を示す必要があります。平準化も同じです。平準化を考えただけでは実現は無理で、それを水道業務の中で実現する過程に技術応用があります
③経営基盤の強化
観点:カネ
内容:事業の継続性を確保するため、料金の適正化や
事業の効率化、省エネにより経営基盤を強化する必要がある。
(2) 最も重要な課題と解決策
課題:老朽化への対応
理由:上下水道施設が老朽化により故障してしまうと大きな社会的影響があるため。
解決策①アセットマネジメント
■内容的にはOKですが、しかしアセットマネジメントの一般論のようです。水道の場合どうなのか、掘り下げた話が欲しいです。
各施設の情報について集約・整理を行い、更新の優先順位付けを行う。更新後の仕様を複数検討し、イニシャルコスト、ランニングコストを算出し、廃止までのライフサイクルコストにより比較検討を行う。中長期的に更新と維持管理を併せて計画し、全体のライフサイクルコストの縮減を図る。
解決策②官民連携
■ここは正解です。
民間資金を活用し、建設・維持管理を一括発注するPFI(BTO、BOO等)や、設計・建設・運転を一括発注するDBO方式等の民間に裁量のある発注方式を行うことで、民間の創意工夫とノウハウを活かした効率的な更新を行う。
解決策③広域化
広域化後に施設の更新と合わせて統廃合を行う。これにより広域的な地域全体での最適な施設配置を目指す。
解決策④ICTの活用
各種設備にセンサーを取り付けIOT化して劣化予測を行い、更新計画に反映する。また、監視制御の更新時にはAI技術を取り入れ省人力化や無人化を図る。
リスク①予測を超えた需要変動
新型感染症の流行により、人々の生活様式の変化や経済活動の変化がある。そのため、従来の需要予測を超えた変動が起きる可能性がある。
■解決策に共通して生じうる新たなリスクとは、問2の解決策が原因となって発生するリスクを求めています。アセットマネジメントしたからと言って新型感染症が流行することはありません。また「予測を超えた需要変動」とは、予測に問題があったのか、需要が社会的要因で変化した可能性があります。いずれも提案とは別要因となります。
対応策①
人口動態等の各指標やPIの変化に注意し、適宜需要予測を改訂していく。
リスク②更新工事中の災害対応
更新工事では設備の停止を伴うことがあり、災害対応能力の低下が懸念される。
対応策②
工事中は代替設備や仮設設備を用意して、施設能力を低下しないようにする。また、近隣事業体との連携により災害対応能力を向上させておく。
(4) 倫理等
・公衆の利益、健康、安全を最優先として業務にあたる。
・官民連携を進めるにあたっては説明責任を果たす。
・需要者に対して誠実に対応する。
・環境負荷の低い材料や設備を選定する。
・他の職員と連携して技術伝承に努める。
・地域の仕事であってもSDGs等の国際的な動向を意識する。
・最新技術等の情報を取り入れ継続研鑽を行う。
■問4で求めているのは、このような心構え、行動方針ではありません。
問2の業務、すなわちアセマネ、官民連携、広域化するのに、ただふつうにするのではなく、技術士らしく技術者倫理と社会持続可能性まで高めてするには、仕事のプラスαとして何をしますか、という意味です。
本講座ではこのような細かい意味、対処法について具体的に添削指導しています。
Ⅱ−1−1
活性炭処理の種類とそれぞれの特徴と処理上の留意点について述べよ。
(1) 活性炭処理の種類
①粉末活性炭注入
粉末活性炭を着水井等に注入し、臭気物質等を吸着させ、沈殿池で沈殿させることにより処理する。ドライ炭とウエット炭注入方式がある。
②粒状活性炭ろ過
粒状活性炭のろ層を通過させることで水処理する。前段に塩素を注入しなければろ層に微生物が付着し、有機物の処理ができる。オゾン処理の後段に組み合わせることがある。
■根拠や提案に対する技術的な背景がやや薄いようなので、もう少し具体的に補足してください。
(2) 特徴と留意点
①粉末活性炭注入
必要な時にのみ使用できるので、注入期間が長くなければ比較的低コストとなる。粉末活性炭を注入すると脱水ケーキが黒くなるので、脱水ケーキを園芸用等として販売する際には留意する。
■「販売する際に留意する」とはつまり何することか、具体的に表すように。 湿気対策は〇です。
ドライ炭はサイロに貯蔵するが、湿気により固まりやすい。エアブラスターや加振装置を設置する。
②粒状活性炭
常時処理となるので高コストとなりやすい。長く使うと目詰まりするので、定期的に洗浄する。石炭系とヤシガラ系があり変更する際には特性の違いに留意する。
「特性の違いに留意する」とはつまり何することか? 具体的に処置法を表現してください。
また、ろ材入替え後には、微粉炭が二次側に流出することがあるので試運転・試験を慎重に行う。生物活性炭はろ材入替後に微生物が付くまで日数を要す。
Ⅱ−2−2
問題文 河川表流水を水源とし、急速ろ過方式を採用する浄水場において、いわゆるゲリラ豪雨と呼ばれる局地的大雨の影響により、年に数回の頻度で原水がきわめて高濁度となる事象が発生しており、対策の検討が求められている。あなたが、この検討業務を担当責任者としてすすめるにあたり、以下の内容について記述せよ。
(1)調査、検討すべきじこうとその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順を列挙して、それぞれの項目ごとに留意すべき点、工夫を要する点を述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整法案について述べよ。
(1) 調査、検討すべき事項
①調査
・過去の事例や他の地域の事例を調査する。近年、気象の変動が激しくなってきているので、できるだけ最新情報を集める。
■ケーススタディでは経験、知識を求めているので、「わからないのでゼロから調べて対処します」では信頼に足る答えになりません。経験力をもとに対処方法を示してください。
・施設能力の余裕度を確認し、高濁対応時にボトルネックとなる部分を洗い出す。
・水源を調査し、豪雨時に高濁の要因となり得る場所を把握しておく。
■これを初めから調べておいて、単刀直入に応えるようにしてください。
②検討
・運転方針について検討する。
・ハード対策について検討する。
・高濁を早めに察知する方法を検討する。
(2) 手順と留意点
■手順としては一般的で、期待される応えにはなっていないようです。留意点としては改善の提案をしてください。
この内容を読んでも、現状改善につながる具体的方策は得られません。
①情報収集
上記調査により、対応すべき濁度と持続時間を決定する。
②組織的対応方針
大きな視点での対応方針を決め、各部署で足並みを揃えて対応できるようにする。その際には、各浄水場の実情を加味し、現実とかけ離れた方針とならないよう留意する。
■見出しの「情報収集、組織的対応方針、ハード対策、ソフト対策」はいずれも形式的な作業区分であり、河川表流水水源の急速ろ過浄水場のゲリラ豪雨対策がイメージできません。マネジメント論ではなく、水道問題の対処法を具体的に表すように。
③ハード対策
ボトルネックとなる設備の改善や設備の増強を行う。
大がかりな工事になることがあるので、アセットマネジメントや長期的な施設整備計画との整合を図る。
・薬品注入設備:凝集剤やアルカリ剤の注入量や貯槽容量の増強
・浄水池:高濁のピークカットのため取水停止ができるよう、容量を増加する。
・処理施設:傾斜板の追加により処理能力を増強する。また、汚泥処理の能力を上げるため、脱水機や天日乾燥床を増設する。
・水源:他の系統の河川からの取水や地下水を代替水源とする。
④ソフト対策
運転マニュアルを改訂し、対応能力の向上を図る。
(3) 調整方策
・組織内
役割分担と責任を明確にする。情報の共有を確実に行う。
■コンサルタントの実務上の「調整」の意味が読み取れません。
本講座では3つの要件を求めています。①調整とは、過剰から減らして、それを移して、不足を解消して最適化している、②プロマネの指導力がある、③専門分野の技術応用がある。この3つを表現しましょう。
・他の組織
河川の水質状況を迅速に共有できる体制をとる。上水の相互融通を検討する。
・需要者等
本取り組みについて説明責任を果たす。
Ⅲ−1
問題文 中小規模の水道事業者の多くは、人口減少に伴う水需要の減少、水道施設の老朽化、深刻化する人材不足等に直面しており、技術的・財政的に様々な課題を抱えている。
さらに、市町村合併等が行われた地域の水道事業者においては、浄水場などの水道施設が点在し、運転監視装置の設備機器厚生や仕様が異なることにより、運転管理や保全管理が複雑になっている場合があり、適切な維持管理を難しくしている。
(1)水道施設の監視制御システムを整備するに当たり、技術者として多面的な観点から検討すべき課題を3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえでその内容を示せ。
(2)抽出したかだいから最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の対応策を示せ。
(3)対応策によってあらたに生じるリスクと解決策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(1) 課題
①効率化と省人力化(持続の観点)
■ここはOKです。
人口減少に伴い水需要の減少、人材不足が見込まれるため、監視制御システムの整備により事業の効率化と省人力化を行い、経営基盤を強化することが課題である。
②災害対応能力の向上(強靭の観点)
人口減少下でも災害対応能力を確保するため、監視制御システムの整備により、複数の浄水場間の相互融通を迅速に行えるようにする必要がある。
■現実的にこの↑ようなことはあると思いますが、しかし残念ながらこの問題での焦点ではありません。別な観点が必要かと思います。
③水質の確保(安全の観点)
水質変動時にベテラン職員のカンによって薬品注入量を変更する事例があるが、将来的に立ち行かなくなる。技術の言語化と標準化を行い、監視制御システムによる自動計算を行う必要がある。
■何故水質、安全に着目ですか・・・やや唐突な感じです。論理的に、問題点からひも解いて課題を挙げるようにしてください。
(2) 最も重要な課題と対応策
課題:効率化と省人力化(持続の観点)
選定理由:水道は国民の生活に欠かせないものであり、各地域の水道事業を持続させることは社会の持続可能性の確保に寄与するため。
■こうした理由はわかりやすい当然のことですし、問題文で求められてはいませんので簡潔に述べてください。
対応策①中央集中化
監視制御システムを整備し、中央の拠点から複数の施設を制御できるようにする。これにより中央以外の施設を無人化する。通信の速さと確実性に留意して整備を行う。
対応策②標準化による維持管理性の向上
市町村合併や広域化した事業体では類似システムを複数運用し維持管理性が低下していることがある。水道情報活用システムの仕様に監視制御システムの仕様を合わせることで、プラットフォーム化とインターフェースの標準化を行い、維持管理性を高める。また、事務系システムも連携し、事務の効率化への波及効果が期待できる。
対応策③AI技術の活用
薬品注入量と水質状況をディープラーニングさせ、AIが適正注入量を算出し、薬品コストを低減する。
水需要の変動をAIにディープラーニングさせ、AIに水需要の予測に基づいて処理や水圧の適正化を行わせて運転コストを下げる。
対応策④IOT技術の活用
老朽化設備に各種センサーを取り付け、データーをシステムに取り込むことで故障に早く気付いたり、予見したりできるようにする。また、スマートメーター
で漏水箇所を早く特定できるようにする。
(3) 新たなリスクと対応策
リスク①ハッキング
監視制御システムを高度なものにすると、ハッキングを受けた時の影響範囲が広くなる。
■今はDXの時代ですから、この話は何にでも当てはまることなので、やや安直です。水道事業、問2で書いたご提案に特有なリスクはありませんか。
対応策
・サイバーセキュリティの強化
OSは常に最新のものとし、ファイヤウォールやアンチウイルスソフトが有効であるか確認する。サーバー室の入退室管理やUSBメモリーの管理を確実に行う。
・システムの冗長化
分散制御装置や現場盤で運転ができるようにしておく。職員に対する訓練を実施する。
リスク②システムのブラックボックス化
監視制御システムが高度なものになると仕組みが把握できなくなり、故障時の対応や技術伝承に支障をきたす。
■この辺りは正解です。
対応
・発注時に内容を開示するよう求めて、仕組みの見える化を行う。
・各種パラメーターを変更できる仕様とし、パラメーターの最適化を職員が行うことで技術力を維持する。