№5 R3年 建設部門、施工計画、施工設備及び積算の答案について添削致しました。 2021/08/04
今回の試験ではよく頑張りました。一目見てこれなら合格の期待が持てると感じました。試験結果は、必須科目がA、選択科目がB,A(総合A)で、みごと合格されました。。ただし、技術士の専門性をアウトプットするような練習はやや不足していたのではないかと想像致します。まじめに白書を暗記して提案するのは初期段階ではOKですが、合格を確かにするには巧みな工夫の提案が欠かせません。
拝見したところ問題点の記述が多く、一方どう解決するかという技術士としての提案が少ないようです。例えば課題のご提案の「省力化」などは、今日ビジネスマンの常識であり、それをどう実現するか、すなわち「ロボット化」や「システム化」などが真の課題です。こうした課題解決力、課題遂行能力はマンツーマンコーチングでコンピテンシーを高めていけば楽勝で高められます。一方、経験知としてのご提案の「地下埋設物」などは、貴重な経験ではありますが、建設技術で解決できない事項であり、現実的にも別途工事であることから、建設・施工としての技術から発散しないように本質的領域で勝負しなければなりません。筆記答案の弱点は、口頭試験に備えて、真の正解を確認されるようにしてください。
技術士試験では、講師の言うとおりに直しているだけでは合格出来ません。大事なのはご自身で正解を感じ取る、そして行動(提案)することです。この感覚を習得されて、口頭試験でも合格を勝ち取ってください。
音声ガイドによるコーチング指導内容(19分33秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-2
近年、災害が激甚化・頻発化し、特に、梅雨や台風時期の風水害(降雨、強雨、高潮、波浪による災害)が毎年のように発生しており、全国各地の陸海域で、土木施設、交通施設や住民の生活基盤に甚大な被害をもたらしている。こうした状況の下、国民の命と暮らし、経済活動を守るためには、これまで以上に、新たな取組を加えた幅広い対策を行うことが急務となっている。
(1) 災害が激甚化・頻発化する中で、風水害による被害を、新たな取組を加えた幅広い対策により防止又は軽減するために、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2) 前門(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3) 前門(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4) 前問(1)〜(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
(1)災害が激甚化・頻発化する中で風水害による被害を防止又は軽減するための課題を以下に示す。
課題1:いかに想定外の災害に対応するか
近年、わが国では時間雨量50㎜を超える短時間強雨の発生件数が増加し、総雨量1000㎜を以上の雨も記録されている。雨の降り方が激甚化・局地化・集中化している。河川やダム、砂防堰堤は想定雨量を元に計画されているので想定雨量を超える雨には対応できない。技術面の観点から、いかに想定外の災害に対応するかが課題である。
■課題がいずれも難題の説明に終始しているようなので、もう少し解決可能な取り組み方針を示した方がよいでしょう。
課題2:いかに日頃から維持管理するか
わが国の主要インフラは高度経済成長期に造られた物が多く、老朽化が進んでいる。それらを全て補修し維持管理するには、時間と労力がかかりすぎる。しかし、維持管理業務に時間と労力を費やす財源には限りがある。仕組み面の観点から、いかに日頃から維持管理するかが課題である。
課題3:いかに省力化するか
少子高齢化社会を迎え、若者の「理科離れ」や建設業の悪いイメージの影響で建設業では働き手の数が減少している。また、熟練工やベテラン技術者の退職で経験者の数も減少している。社会では「働き方改革」として、ひとりひとりの就業時間の短縮を求められている。しかし、近年のような激甚化した風災害にも対応しなければならない。以前よりも少ない人数で若手技術者のみで業務を行う必要がある。人材能力面の観点から、いかに省力化するかが課題である。
■省力化は一応はOKですが、今日社会人の常識でもありますので、技術士としては何らかの技術方針を示すように。
(2)上記に示した課題のうち、課題1の「いかに想定外の災害に対応するか」は喫緊の課題であり、最も重要な課題として解決策を以下に述べる。
解決策1:住民の意識改革
現状以上にハザードマップを活用し、住民の意識を変えることが重要である。風水害を想定した市町村規模での避難訓練を実施することが効果的である。また、「緊急地震速報アラート」や「Jアラート」を活用して避難経路や避難場所を住民の携帯電話などに直接、通知できるようにすることで正しい情報を周知できると考える。
解決策2:大雨・洪水の対策(流域治水対策)
近年、水害が頻発していることを考えると「施設の能力には限りがあり、施設では防ぎきれない災害は必ず発生するもの」へと考え方を変える必要がある。水害を未然に防ぐ予防保全対策(堤坊・遊水池整備、河道掘削、侵食・洗堀対策、漏水・浸水対策等)が効果的である。
解決策3:ライフラインの確保
風水害には企業や地方公共団体などがソフト対策に重点を置き対応する必要がある。防災関係機関・公益事業者等の事業継続計画(BCP)の策定、氾濫水の排除、氾濫水の制御など企業の防災意識の向上が効果的である。また、氾濫しても甚大な被害にならないような「粘り強い施設整備」が重要である。
(3)上記で示した解決策を実行しても生じるリスクと、それへの対応策について以下に示す。
リスク:ハード整備により変化するハザード
古いハザードマップで安全な場所であっても、災害対策工事によって隣の堤坊を整備したことによって、その場所で被災してしまうことが考えられる。
対応策:リアルタイムなハザードマップを周知
災害対策工事として堤坊を整備しながらリアルタイムにハザードマップを更新し周知する。さらに、新しいハザードマップを用いて避難訓練を実施すると効果的である。また住民ひとりひとりがマイタイムラインを作成し準備することが重要である。
(4)上記の業務を遂行するに当たり、必要となる要件と留意点を以下に述べる。
要件:エンドユーザーの安全・安心の確保
建設業は公共性が高いので、常にエンドユーザーの安全・安心を確保し、維持しなければならない。
つまり公益性を高めること。ではそのために「私」は何をしますか。答えの意味を誤解されているようです。公益性を高める独創的な提案・・それが求められている要件です。
留意点:安全・安心の維持
「造って終わり」では無く、安全に長期間維持できるように留意する。 以上。
■これは施設の持続性です。そうではなくここで求められているのは、社会の持続性とはいわゆるSDGsのことです。
Ⅱ-1-3
建設工事において使用される足場(つり足場を除く)の倒壊を防止するため、施工計画及び工事現場管理それぞれにおいて留意すべき事項を説明せよ。
施工計画
建設工事において仮設足場を設置する際には事前に施工図や組立図を作成する。
■あまり当然すぎることは答案に不向きです。技術的な検討を要することに絞った方がよいでしょう。
そこで網やシートを考慮して風荷重を計算し「壁つなぎ」の数を計画する。
ただし、足場を設置する地域の風荷重を計算するように留意する。新設する構造物に関して壁つなぎを設置できない場合は地面からの控えを設置する。また、全ての足場を1度に設置するのではなく、安全な高さで組み立てを中止する。構築が進んで壁つなぎを設置できるようになってから残りの足場を組み立てるようにする。
工事現場管理
仮設足場を用いて作業する技能者が作業に影響が出るので足場の一部を撤去してしまうことが考えられる。撤去した一部を元に戻さない影響で倒壊につながる危険性がある。そこで、足場の一部を撤去した場合には早期に必ず復旧するように周知・教育する。
■やや好ましくない利用の仕方です。効果的、安全性を高める方法について述べるようにしてください。
また、仮設足場の使用前には必ず点検してから使用するようにする。大雨・大雪・地震時の後には必ず点検を実施して作業を開始する。点検時には、壁つなぎ、根がらみ、ジャッキベースの状態を注視する。
Ⅱ-2-2 住宅が密集する市街地において鉄道新設建設(高架構造、下図参照)が行われており、このうち延長500mの工区の下部工工事(主に20m間隔で橋脚を設置、1基当たりの基礎と橋脚の合計体積は約310m3、杭の体積は約210m3)を実施することとなった。なお、この工区に接している公道は、工区の両端で交差している市道(計2本)のみである。また、鉄道用地の両側には、工事で使用可能な用地(幅員約4m、開業後道路として使用予定)が併設して確保されている。以上を踏まえて、本工事受注者の担当責任者として以下の内容について記述せよ。
(1)効率的な施工をするために検討すべき事項(関係者との調整事項は除く)のうち、本工事の特性を踏まえて重要と思われるものを3つ挙げ、その内容について説明せよ。
(2)本工事において、責任者として工程管理をどのように行うのか、留意点を含めて述べよ。
(3)関係者との調整により決定される本工事での施工条件を1つ挙げ、調整方針及び調整方策について述べよ。
(1)本工事を効率的な施工とするために検討すべき事項を以下に説明する。
検討事項1:地下埋設物の検討
本工事の橋脚は場所打ち杭を打設する必要があるので掘削工事や基礎部の土留め工事が考えられる。地盤を掘削するため、埋設物の調査を検討する必要がある。発注者や近隣の道路管理者や用地管理者を調査し埋設物の位置や高さを確認する。
■この↑提案は技術的な話ではないのであまりお勧めできません。
検討事項2:コンクリート工場の出荷可能量と距離
当該橋脚は非常に多くのコンクリートが必要となるのでコンクリートの出荷可能量が重要である。打設予定位置とコンクリート工場の距離や工場のコンクリート出荷可能量、アジテーター車の台数など円滑にコンクリートを打設できるか検討する。
■この現場ではどうなのか。添付図から考えるように。
検討事項3:家屋調査と周辺環境
住宅が密集する市街地で工事を行うため工事着手前に周辺の住宅や病院、工場などの破損状態を調査する。また、近接する住居へ騒音や振動の影響が少ないように工事用車両の出入口ゲートの位置を検討する。
(2)本工事において工程管理を行う留意点を以下に述べる。
調査事項
場内に埋設物がある場合には試掘し位置と高さを確認する。実際に試掘する際には発注者や埋設物管理者に立ち会ってもらい確認してもらうと良い。
計画事項
本工事は延長約500mの間に20m間隔で橋脚を設置するので、約20基の橋脚の構築が必要と考えられる。橋脚の施工順序を誤れば非常に効率が悪くなってしまうため、施工順序に留意する。
■ではどうすべきですか。具体的手順を示すように。留意点とは、効果的に解決が評価されます。できそうな見込み感が得られないとコンピテンシーが高まりません。下も同じです。
施工時
検討・計画した内容を元に周辺環境を考慮して手順通りに慎重に作業をすすめる。1回のコンクリート打設量を多くしたいがコンクリート工場の最大出荷量や想定打設終了時間を考慮して打設リフトを設定する。
工程管理は施工時よりも調査や計画を十分に進めることが重要であると考える。
(3)関係者との調整により決定される施工条件と調整方針及び調整方策について以下に述べる。
発注者との調整
発注者より工期短縮を求められることが考えられる。早期に本工事全域を着手し、早期に完了する方針で調整する。しかし、工事の着手時期や範囲、上部工工事業者への引き渡し時期などが不明確であると難しくなる。
調整方策としてはCIMを用いて3Dモデル化し調整することでお互いの理解が深まり早期に解決することが考えられる。また、近隣住民への説明にも用いることでイメージしやすくスムーズに工事を進めることができると考えられる。 以上。
■実際にこのようなことをご経験されたことはありますか。住民は3Dでわかりやすいからと言って、合意してくれるとは思えません。現実感がないと説得力に欠けます。そのような建設環境問題に発散するのではなく、問題文は「関係者との調整により決定される本工事での施工条件」ですから現場内の本質的な改善、効率化を追求してください。
Ⅲ-1 働き方改革関連法による改正労働基準法(平成31年4月施行)に基づき、令和6年4月から建設業に時間外労働の罰則付き上限規制が適用されることとなった。また、公共工事においては週休二日対象工事の発注が拡大している。
建設業が引き続き、社会資本の整備・維持管理、災害対応、都市・地域開発、住宅建設・リフォーム等を支える役割を十分に果たしていくためには、建設業の働き方改革の取組を一層進めていく必要がある。
このような状況下において、週休二日が前提となった多工種工事を受注した。本工事の受注者(元請負人)としての立場で、以下の問いに答えよ。
(1)本工事のすべての工事従事者の週休二日を実現するため、施工計画を策定する際に検討すべき課題を、多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示した解決策を実行しても新たに生じる懸念事項とそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(1)本工事の工事従事者の週休二日を実現するため、検討すべき課題を以下に示す。
課題1:いかに週休二日と品質確保を両立するか
近年、社会では「働き方改革」や「生産性向上」を目指す目的で業務を効率化する機械やソフトなどの技術が流通している。それらの機械やソフトは業務を効率化する半面、効率性を追求するあまり、構築する構造物の品質低下につながる危険性がある。技術面の観点から、いかに週休二日と品質確保を両立するかが課題である。
解決困難なトレードオフを示すだけでなく、どう解決するか、Ⅲでは建設施工技術での解決方針を示すようにしてください。
課題2:いかに週休二日と安全確保を両立するか
少子高齢化社会を迎え、若者の「理科離れ」などの影響で働き手の数が減少している。また、熟練工やベテラン技術者の退職で経験者の数も減少している。慣れない若手技術者だけでは危険箇所に気付きにくい。少ない人数と日数で引き続き社会資本の整備・維持管理、災害対応、都市・地域開発を進めていく必要がある。人材能力面の観点から、いかに週休二日と安全確保を両立するかが課題である。
一般的には、解決策の無い、解けない問題です。それをどうするかまで言及するように。
課題3:いかに週休二日と原価低減を両立するか
業務を効率化するICT建機やUAV、ソフトなどのうち、一般的になったものは低廉化してきたが、依然として高価である。それらを予算に見込まれていない状況で導入すると工事原価に大きな影響を与える。
また、新しい技術の開発費用を工事原価で、まかなうことは難しい。新技術の開発はリスクが大きいので着手しづらい。制度面の観点から、いかに週休二日と原価低減を両立するかが課題である。
ここも同じ。問題に気づくだけでは不十分です。
(2)上記に示した課題のうち、課題1の「いかに週休二日と品質確保を両立するか」は喫緊の課題であり、最も重要な課題として解決策を以下に述べる。
つまり、工業化とか生産性の向上です
解決策1:コンクリートのプレキャスト化・ユニット化
本工事は多工種工事であるのでコンクリート構築工事があると考えられる。そこで、コンクリートのプレキャスト化を導入する。プレキャストコンクリートは工場で製作するので天候の影響を受けず品質向上が見込まれる。また、鉄筋の機械式定着や機械継手を採用することで現場作業の省力化が期待できる。しかし、製作・運搬・納入時に破損させないように十分、留意する必要がある。
解決策2:情報化施工
ICT土工から始まったICT重機を採用する。マシンガイダンスやマシンコントロールを導入し丁張や測量の業務を短縮することができる。さらに重機オペレーターが出来形を考慮しながら作業するので品質向上につながると考えられる。また、情報化施工によってデータに基づく検査が可能となるため、技術者の手間を減らしつつ従来と同等の品質管理を実施できると考える。
解決策3:国土交通プラットフォーム
地理情報や土質・地質情報の管理は地方自治体や企業、団体などが管理していて、さまざまな様式である。2020年に国土交通省が公開した「国土交通プラットフォーム」を使用することで、施工計画の時点で本工事の地理情報、土質・地質情報を得ることができる。よって、現地での地質調査の回数や時間を短縮することができると考える。また、本工事が完了したあとも工事で知り得た情報や地質データを共有することで今後の業務に活かすことができると考えられる。
(3)上記で示した解決策を実行しても新たに生じる懸念事項とそれへの対策について以下に示す。
懸念事項:若手技術者の技術力の低下
■比較的わかりやすい、一般的事項となっています。ここはもう少し、技術士としての鋭い分析の視点を示した方が良いでしょう。
ICT建機や業務を効率化することで若手技術者の技術力の低下が考えられる。
対策:資格・教育制度の充実
新しい資格や教育制度を充実させる。建設業法の改正により「監理技術者補佐」が導入されたが、監理技術者を補佐する1級技士補には、現時点で継続的な研鑽が求められていない。監理技術者の資格と同様に継続研鑽(CPD)制度を導入し技術者を教育することが有効であると考える。