№10 R3年 建設部門、鋼構造及びコンクリートの答案について添削致しました。 2021/08/9
答案の表現力は論文として十分です。結果はAAAと期待通りの評価で合格されました。ただし、建設部門鋼構造及びコンクリート技術士としてのプロの答えを表現すればさらに合格しやすくなります。今回の試験ではそうした専門的な練習がやや不足していたのではないかと想像されるようなところが見受けられます。
今回は3回目の受験だとのことですが、これまで有料の講座をお受けになったことがないとのことでした。このため戦略的な論文表現がやや弱かったようです。記述内容にやや矛盾や無駄があり、出題者が求めるストライクゾーンが答えられていないみたいです。
必須Ⅰでは、課題の「予防保全」はテーマとして求められた防災に限らず、すべてのインフラに共通した事項で、必然的な関係性があいまいです。また、解決策では、課題とやや似ており、ダブリとなる危険性があります。もっと具体的に気象予測や水理工学の提案をされると良いでしょう。選択科目Ⅱ-1,Ⅱ-2はほぼOKです。Ⅲは課題の表現で分析が甘いです。「新技術等活用」ではなく建設・鉄道の技術課題とすべきでした。このほか説明がやや冗長となっているようです。簡潔な書き方ができると、本題に迫る得点力の高い答案が書けたのではと思います。
しかしこうした弱点があったとしても、コンピテンシーが認められたので合格されました。口頭試験に備えて、再現答案を修正して、まずは真の正解を確認されるようにしてください。合格のヒントを音声ガイド出申し上げます。
技術士試験では、講師の言うとおりに直しているだけでは合格出来ません。大事なのはご自身で正解を感じ取る、そして行動(提案)することです。この感覚を早く習得されて、合格を勝ち取ってください。ただし1回で合格するには正しく学ぶ必要があります。本講座ではマンツーマンコーチングで技術士コンピテンシーを引き出して一発合格するための指導をしておりますのでご参考にしてください。
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問題 Ⅰ-2
近年、災害が激甚化・頻発化し、特に、梅雨や台風時期の風水害(降雨、強風、高潮・波浪による災害)が毎年のように発生しており、全国各地の陸海域で、土木施設、交通施設や住民の生活基盤に甚大な被害をもたらしている。こうした状況の下、国民の命と暮らし、経済活動を守るためには、これまで以上に、新たな取組を加えた幅広い対策を行うことが急務となっている。
(1)災害が激甚化・頻発化する中で、風水害による被害を、新たな取組を加えた幅広い対策により防止又は軽減するために、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)前問(1)〜(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
1.災害が激甚化・頻発化する中での新たな風水害対策の課題
←■見出しは短く1行以内で表記してください。
(1)安心安全なまちづくり
■アンダーラインはなくても構いません。
二酸化炭素排出量増加に伴う地球温暖化により、頻発化・激甚化する風水害に対して、被害を最小化し、住民の安心・安全な生活を守るためには、都市のコンパクト化において、より安全地域への移住誘導といったまちづくり上の規制・誘導策と、防災・減災に真に必要な事業を総合的にパッケージで展開する仕組みを構築する事が課題である。
(2)予防保全への転換と防災インフラの構築
構造物の維持管理は、現況事後保全となっており、体系的な維持管理となっていない。構造物に劣化が起こっていると発災時に防災インフラが所定の機能を発揮しないリスクがある。求められる機能を発揮するには、所定の性能を常に満足していることが必要であり、そのためには、事後保全から予防保全に転換していく必要がある。
(3)リダンタンシーの確保
大規模な自然災害の発生により経済社会に多大な影響を与える恐れがある。なぜなら、我が国の人口は大都市に集中しており、経済、政治、行政機能も大都市に集積しているため、大規模な自然災害が大都市で発生すると主要な機能が停止することが懸念されるからである。また、災害復旧を支えるネットワークが弱いことも要因として挙げられる。
2.最も重要と考える課題と複数の解決策
上記の課題の中で、(3)リダンタンシーの確保が最も重要な課題と考え、以下に解決策を示す。
(1)コンパクト+ネットワーク
大規模な自然災害に対してリダンタンシーを確保するにはコンパクト+ネットワークが有効である。なぜなら、コンパクト化により行政サービス等を集約化し、ネットワーク化により圏域人口を拡大することで地方創生を促し、大都市への人口流出を緩和することができると考えられるからである。
■コンパクトシティーは課題1に相当するのでここでは領域外です。リダンタンシーについて集中しましょう。
また、リニア中央新幹線の開通によるスーパーメガリージョンを形成することで、1 日の移動圏域を拡大することで、対流を促進し、地方の活性化に寄与できると考えられる。
■解決策がやや発散しています。風水害との対応を明確にするようにしてください。網羅的に広い視点を示すため解決策として3項目程度は欲しいです。
(2)災害復旧を支えるネットワークの強化
大規模な自然災害に対してリダンタンシーを確保するには災害復旧を支えるネットワークの強化が有効で
ある。なぜなら、災害復旧を支えるネットワークを強化することで、大規模な自然災害発生後、迅速な復旧を可能にし、経済社会に与える影響を緩和できると考えられるからである。
具体的には、大都市の高規格環状道路の未整備区間
の整備や高規格幹線道路の暫定2車線区間の解消、緊急輸送道路の耐震性を向上させることも有効である。
3.新たに生じるうるリスクとその対策
(1)新たなリスク
コンパクト+ネットワークや災害復旧を支えるネットワークの強化を推進する上で、特に人口減少が進む地方部では費用対効果の観点から事業化が困難になることがリスクとして挙げられる。
■解決策の推進段階でのことではなく、完成した時点でのリスクを求めています。
(2)対策
防災の観点での便益を費用便益分析に適切に反映し、事業の有効性を示すことが挙げられる。また、発現したストック効果を取りまとめ、見える化・見せる化することで国民のコンセンサスを得ることも重要である。
■費用便益分析は、すべてのインフラに行われており、ここでのテーマ「風水害」に対応した内容ではないみたいです。
4.業務遂行に当たり必要となる要件
(1)技術者倫理の観点
事業を行う際には、予算や工期面など様々な制約があり、その中で判断を迫られる場合がある。しかし、いかなる場合も不正を行わずに業務を進めることが技術者としての倫理の観点から必要である。
■技術者倫理とはもちろん不正を行ってはいけません。あまりにも悪すぎる喩えでは正しい説明になりません。もっと高い倫理観の例を示すのが良いでしょう。
(2)社会の持続可能性の観点
社会の持続可能性の観点から必要となる要件として、生物多様性の保全が挙げられる。生物の多様性を保全するためにはグリーンインフラの採用を検討することが重要である。具体的には多自然川づくりやエコロードを推進することで生物多様性の保全による持続可能な社会の形成に貢献できると考えられる。
■こちらは正解です。末尾の「以上」はなくても構いません。
以 上
問題文 Ⅱ−1−4
既設コンクリート構造物において、浮きやエフロレッセンスを伴うひび割れが局所的にみられた。当該構造物を長期間供用していくために詳細調査計画を策定すべく、非破壊試験を適用したい。そこで、生じている現象から推定される構造物内部の変状を想定したうえで求められる情報と適用すべき非破壊検査手法の組合せを2つ提案し、それぞれの計測原理及び実施に対する留意点を延べよ。
局所的な変状であることから、鉄筋のかぶり不足による鉄筋の発錆に伴う浮き、エフロレッセンスを想定
■構造物の部位と「生じている現象」だけを示す。
(1)赤外線サーモグラフィ法による内部欠陥の推定
赤外線サーモグラフィ法は、日射等により生じた健全部と欠陥部の温度差を計測することで内部欠陥の検出を行う非破壊試験である。
測定に当たっては、1日の日射受熱量が最大となる時間帯等健全部と欠陥部の温度差が大きくなる時間帯に測定を行う必要がある。なお、気温差が小さい場合や日射がない箇所、コンクリート表面が濡れている場合や汚れている場合は温度差が生じにくいため、内部欠陥と誤認する可能性があるため留意が必要である。また、検出深度は表面から10cm程度であることも留意が必要である。
■はどう処置すればよいのか。行動まで示すと留意点として評価できます。
は制約事項。対処不能なので別な解決が必要です。そこまで示すように。
(2)電磁波レーダ法によるかぶり厚さの推定
電磁波は、金属を透過せず、金属表面で全てを反射するという性質を利用した非破壊試験である。装置から発信した電磁波の反射波を受診することで、到達時間や強度などを測定し、反射波形を画像化することで鉄筋位置の推定を行う。
コンクリートの比誘電率は、含水率による影響が大きく含水率が高い場合や表面が濡れている場合には、精度が低下したり計測できない場合がある。反射波形の判読は、技術者の経験や技量により測定精度が左右されることに留意が必要である。
■これも具体的な処置、対処法を技術士としてノウハウを示すように。できないこと、誤差が大きい・・では使えません。
以 上
Ⅱ-2-2 建設から30年以上が経過し、老朽化が進んだ構造物に対する耐震補強を実施することとなった。既設構造物の性能を評価し、現行の基準類を満たすように耐震性能を向上させる目的で、あなたが担当責任者として業務を進めるに当たり、下記の内容について記述せよ。
(1)対象とする既設構造物と老朽化の状況を設定し、老朽化の状況を踏まえた耐震補強を行ううえで、調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)留意すべき点、工夫を要する点を含めて業務を進める手順について述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
・対象とする構造物:市街地を通過するコンクリート単柱式橋脚を有する鋼連続版桁橋
・老朽化の状況:上部工の伸縮装置のといからのろう水が橋脚をつたってかぶり不足と思われる箇所に浮きや錆び汁が発生している
1.調査・検討すべき事項とその内容
(1)対象橋梁の保有性能
橋梁の設計・施工に関する既存資料(完成図書、橋梁補修・補強資料等)を確認し、耐震設計に必要な情報を整理し保有する耐震性能を確認する。
■具体的に「保有する耐震性能」はどう確認するのか示すように。資料確認は簡潔に。
(2)耐震補強工法の事前検討
耐震補強工法は、橋梁の構造条件、河川や交通量等が施工条件に影響されるため、様々な制約条件を考慮した最適な耐震補強工法を経済合理性を踏まえ選択する。具体的には、橋脚補強は橋脚の水平耐力を過度に増加させることなく、じん性を向上させ粘り強い構造とする。方策としては、コンクリート充填工法や断面増し厚工法を考える。また、橋梁全体の補強については、橋全体の耐震性能の向上を図るものとし、個別部位の補強は最低限な補強に留める。橋梁全体の補強方策としては、免震工法や慣性力分散工法、変位拘束工法を検討する。
■具体的解決法に入り込みすぎています。ここでは調査、検討にとどめ、解決策は2で述べるように。
2.業務を進める手順及び留意点と工夫を要する点
(1)現地調査
必要に応じて道路交通制限や高所足場の設置など安全条件の設定を行う。また、耐震補強を行う橋梁の劣化度や耐久性、損傷状況、施工を行う際の周辺状況等の情報を把握し、設計や施工に反映させる。
■せっかく1でまとめられたのに、生かされていません。白紙から現場施工管理するみたいです。
そして鋼コンなので施工管理より、コンクリート管理に重点を置くように。
(2)耐震補強設計
道路橋示方書で決められた手順に従い耐震補強設計を行う。また、関係者でデザインレビューを実施する。
(3)現場施工
事前調査で得られた情報を施工計画書に反映し、施工従事者に施工計画の説明を実施する。
品質向上として、橋脚のコンクリート巻き立て工法は、過密配筋かつ巻き立て厚さが薄いため高性能AE減水剤を用いた締固め管理や耐震性能として要求される新旧構造物の応力伝達が確実に行われるような接着面の管理に留意する。
■これら↑のことを4〜5の時系列の「手順」として挙げて、述べると良いでしょう。
3.関係者との調整方策
関係者との協議は、影響が生じる可能性のある関係機関の特定に努める。協議を的確に行うことで、工事着手の遅延回避、協議の成立待ちによる手待ちを回避し施工期間の短縮が図られ、利害関係者への影響を最小限にとどめることが可能となる。
■現場管理の戦術みたいで、真の効率化ではないみたいに感じます。そのようなテクニックではなく、具体的に2の作業をどう改善するかについて述べてください。
近隣住民に対しては、視覚的に分かりやすい資料作成が有効と考え、CIMを活用し3次元モデルを用い施工ステップや道路交通規制状況を視覚的に説明することで工事に対する理解度向上を図り、合意形成に努める。
■住民はCIMの3Dの説明を求めているでしょうか。住民が不安視して反対するのは2Dが原因ではありません。本質を見極める必要があります。試験の対策ではなく、プロの提案を。
以 上
Ⅲ-2 我が国は、大量の鋼構造物やコンクリート構造物の維持管理が社会問題となっている。特に、従来からの事後保全型メンテナンスには限界が叫ばれ、持続可能なメンテナンスサイクルの実現に向けて、新しいメンテナンス手法の導入やシナリオの転換が求められている。このような状況を考慮して以下の問いに答えよ。
(1)近年、予防保全型メンテナンスが期待されているものの、未だその推進は十分とは言い難いのが現状である。このような現状に対し、鋼構造及びコンクリートの技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、その内容を示せ。 (2)抽出した課題のうち、あなたが最も重要と考える課題を1つ選択し、その課題に対する複数の解決策を示せ。 (3)すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
1.予防保全型メンテナンスにおける課題
(1)地方自治体におけるメンテナンスサイクル
道路橋は、全国に約70万橋存在しその内約7割になる約50万橋が市町村道であり、地方自治体の管理する道路橋をいかに効率的・効果的に管理していくかが重要である。また、限られた予算や技術者の中、地方自治体だけで維持管理を行うことは困難な課題がある。
■困難さを言うのではなく、現状を打開する新しいメンテナンス手法やシナリオ転換を鋼コンの視点から述べるように。
(2)点検品質の確保
道路橋の定期点検において、点検困難箇所を多く有する事や部材別の健全度評価だけではなく、構造物全体としての健全性評価も必要なことから、点検技術者には高度な技術力が求められる。しかし、少子高齢化に伴う新規就労者の減少や厳しい建設産業の労働環境による就労者の定着が進まないことから、技術の伝承が十分に行えず、点検品質が低下することが懸念される。
(3)人口減少社会への対応
我が国は今後、少子高齢化が急速に進行することにより、コンパクトシティ化の進行が見込まれる。これにより、中山間地域等の過疎化が更に進行し今後消滅する集落の発生も見込まれる。このため、中山間地域等の使用頻度が極端に少ない社会インフラについて、廃止・撤去等の選択と集中を行うことが人口減少社会対応から重要である。
■このテーマはどこから出てきましたか。予防保全型メンテナンスに焦点を絞って課題を挙げるように。
2.最も重要と考える課題と複数の解決策
上記の課題の中で、(1)地方自治体におけるメンテナンスサイクルが最も重要な課題と考え、以下に解決策を示す。
(1)ICT・AI技術の活用
点検・診断等にICT・AIによる新技術を活用することで、省力化・効率化・低コスト化を行うことが重要である。具体的には、ドローンによる橋梁点検やAIによる構造物変状の診断が挙げられる。
■提案はOKです。ただし「地方自治体におけるメンテナンス」と系統がやや違うようです。技術志向の課題名が欲しかったです。
(2)基準類の整備等
点検・診断結果のバラツキや維持修繕等の不適切な工法採用を回避するため統一した基準やマニュアルの整備が重要である。国が主導して主導して統一した基準やマニュアルを整備し、点検・診断や維持修繕工事の品質向上を図る。また、PPP/PFIによる民間人材を活用することで地方自治体の技術者不足の解消、民間のノウハウを取り入れることで業務の効率化を図る。
(3)データ活用型インフラメンテナンス
IOTの新技術により、計測・点検、補修・更新等の膨大なデータが得られる。これらの情報を有効活用できる様に、インフラメンテナンス2.0の推進を行う。具体的には、各管理者の保有している情報から、電子化すべきデータの項目・内容等の統一を図り、併せて各管理者、企業、研究機関等が保有しているデータベースを活用することで、得られた情報を各管理者間相互共有や多くの情報分析によるメンテナンスの高度化、効率化が可能となる。
3.新たに生じるうるリスクとその対策
(1)新たなリスク
ドローン等の無人点検や新たなデータベース構築には、地方自治体特に小規模な市町村では、人材・体制、予算面で難しく、データ活用型インフラメンテナンス導入が進まない。
■比較的わかりやすい懸念事項であって、前提みたいなことです。リスクとは、もう少し深く考えて、技術士以外では予測困難なことがふさわしいです。手段的な事項よりシステム、根幹にかかわることを。
(2)対策
国による新たな補助金制度の設立や道路メンテナンス会議による各管理者と技術の共有を図ることや研修を通して体系的な技術アドバイスを実施する。また、PPP/PFIによる民間人材を活用することで地方自治体の技術者不足の解消、民間のノウハウを取り入れる。
以 上