№12 R3年 上下水道部門 下水道の答案について添削致しました。 2021/08/17

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この答案についての講評

 答案の表現力はこれで十分です。見識問題では正しく解答ができています。試験結果は、予想通りオールAで合格されました。素晴らしい結果です。上下水道部門下水道技術士としてのプロの答えを表現すればさらに合格しやすかったです。今回の試験ではそこまでの専門的な練習は不足していたのではないかと想像されます。

 これまで3回目も受験されて、しかも有料の講座もお受けになって苦労されているご様子なので残念です。このため戦略的な論文表現がやや弱かったようです。ご自身の努力だけでは、出題者の真意が読み取れず、解答のストライクゾーンに答えるのが難しい場合があります。まずは記述内容の矛盾や無駄をなくして正解答案として高めてください。

 必須Ⅰでは、上下水道技術士の課題の議論がやや少なく、一般的な業務マネジメントとなっているように感じます。官民連携とか安直に組織や他者に頼るのではなく、技術士としてのご自身の提案があれば申し分なかったです。

選択科目Ⅱ-1は、省エネだけではなく下水道施設でのエネルギー生産、農業の生産性向上に貢献することを訴えましょう。Ⅱ-2は、出題者意図がやや読み取れていなかったようです。問題文にある「防災」と「減災」を組み合わせた・・の意味がカギです。ご自身のアイデアがまとまらないままでは専門家らしい提案は苦労されたと思います。Ⅲは、老朽化、耐震化の必要性はともかく、ICTの主題とはやや関係薄いのではありませんか。ここはICTの活用を推進して対応すべきかと思います。ナレッジマネジメントは◎です。この問題の主題のICTの活用との関係性について述べるると、さらに楽勝で本題に迫る得点力の高い答案が書けたのではと思います。

 しかしこうした弱点があったとしても、コンピテンシーを高めていけば誰でも合格できます。口頭試験に備えて、再現答案を修正して、まずは真の正解を確認されるようにしてください。

 技術士試験では、講師の言うとおりに語句を直しているだけでは合格出来ません。大事なのはご自身で正解を感じ取る、そして行動(提案)することです。この感覚を早く習得されて、合格を勝ち取ってください。ただし1回で合格するには正しく学ぶ必要があります。本講座ではマンツーマンコーチングで技術士コンピテンシーを引き出して一発合格するための指導をしておりますのでご参考にしてください。

 音声ガイドによるコーチング指導内容(25分49秒)がダウンロードされますのでお聞きください>

問題  Ⅰ-1  日本の将来人口は減少していくと予測されている。この人口減少により上下水道事業では、将来水需要の減少に伴う料金収入の減収や職員数の減少が見込まれている。一方、多くの施設は、老朽化が進行しており、更新時期を迎えつつある。このため、今後も安定して事業を継続していくためには、厳しい財政状況の下で執行体制の省力化を図ながら事業が進められるように上下水道事業の基盤強化を着実に進めていくことが求められている。

(1)上下水道事業に共通する事業基盤強化に関して、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで課題の内容を示せ。

(2 )抽出した課題のうち最も重要と考える上下水道に共通する課題を1つ挙げ、その課題 に対する複数の解決策を示せ。

(3)解決策に共通して生じうる新たなリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

(4)業務遂行において必要な要件を技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。

(1) 上下水道事業に共通する課題(3つ)

①上下水道に携わる技術者の減少への対応

 上下水道に携わる官民双方の技術者は40〜50歳代が多く、人口減少などにより技術者は減少する傾向にある。今後長期的視点から上下水道事業を継続していくためには、ナレッジマネジメント、ICTの活用、官民連携などを行い、技術者減少に対応することが課題である。

■このページは合格点取れています。

②上下水道施設の老朽化及び更新需要の増大への対応

 上下水道施設の多くが老朽化により更新時期を迎えている。

そのため、アセットマネジメント手法を採用し、施設のリスク評価や影響評価に基づき、更新需要を平準化するとともに、効率的な施設維持管理を実施することが課題である。

③財政収支の悪化への対応

 人口減少に伴い料金収入が減ることが想定される一方で、更新や維持管理に要する費用が今後増えることが想定される。

 支出削減のための民間活用や、簡易水道・人口3万人以下の下水道事業への複式簿記・公営企業会計を導入し、健全な財政収支を確保することが課題である。

■経営改善はわかりますが、技術士の貢献になるでしょうか。下水道工学の視点からの指導、改善提案はありませんか。

(2) 最も重要と考える上下水道に共通する課題

①最も重要と考える課題

 前述の「(1)−①上下水道事業に携わる技術者の減少への対応」が最も重要な課題と考える。

 その理由は、上下水道事業を安心・安全に継続的に実施していくためには、技術の継承や研さんが必要だからである

■近年、理由は求められなくなりましたので書かれなくても構いません。解決策に注力しましょう。

②解決策

1)ナレッジマネジメントの採用

 ナレッジマネジメントの採用により技術継承と向上を図る。ベテラン職員の技術やノウハウは技術者の頭の中にあり暗黙知となっており、形式知化を図るとともに、業務手順のマニュアル化や標準化を図り、また、継続的な教育訓練を実施する研修計画を立案・実施することによって、技術継承を行うことが解決策である。

水道技術と関係の無い能力開発です。このような取り組みは何の事業でもいることです。技術士としてはどうなのか、水道技術に特化した話はありませんか。

■1)はOKです。合格点取れています。

2)ICTの活用

 ICT技術を活用して、技術の継承や業務の効率化を図る。具体的には、BIMやi-constructionによる施設工事の施工自動化、システムを活用したストックマネジメントやナレッジマネジメント、処理施設の運転監視制御システムの導入による業務の効率化などである。業務効率化により少ない技術者で事業を推進していくようにするのが解決策である。

■業務効率化はOKですが、上下水道の分野でICTはどのように進めますか。ただBIMやi-constructionしかありませんか。建設と同じようにすればよいだけでしょうか?キーワードを挙げるだけでなく、水道としての活用法に触れるようにしてください。

3)官民連携の推進、広域化・共同化

 DB、DBO、コンセッション方式などの民間への包括委託、PFIなどの民間資金の活用などが解決策である。事前のマーケットサウンディングやVFMの算定などによって官民連携の効果を事前に調査することに留意する。また広域化・共同化によって事務事業の効率化を図り、執行体制の省力化を図ることも解決策である。

(3) 新たに生じうるリスクと解決策

 ICT活用におけるサイバーテロが新たに生じうるリスクとして考えられる。関連システムが停止すると上下水道の供給が停止、大きな影響が発生する懸念がある。

■情報システムにサイバー攻撃はつきものです。易しすぎて技術士が挙げるリスクとは思えません。提案内容の「ナレッジマネジメント、ICT、官民連携」が完成した時点で、社会問題となることはありませんか。

 そのため、情報セキュリティ体制を強化することはもとより、上下水道事業に携わる技術者への教育・訓練を強化する。

(4) 技術者倫理、社会の持続可能性の観点からの業務遂行要件

 官民連携にあたっては、民間企業が公益よりも収益を優先する懸念がある。

■解決策のメインは「官民連携」できなく「ナレッジマネジメント、ICT」です。こちらについて述べる方がよいでしょう。

技術者として公益確保を最優先することを念頭に起き、民間の活用にあたっては、責任分担を明確化するなどの対応を図る。

 また、社会の持続可能性の観点からは、地球環境保全の重要性に鑑み、温室効果ガスの削減、省エネルギー、資源の有効利用などを施策として取り込むなどの対応が必要である。            以上

■社会の持続可能性のために温室効果ガスを削減するでは、ほぼイコールではありませんか。問いの真意は「問2の解決策、ナレッジマネジメント、ICT、官民連携でCO2削減するには、あなたは何の行動(要件)をしますか」という意味です。独自の取り組みが要ります。

問題文 II-1-4 下水汚泥のエネルギー利活用の目的を説明し、下水汚泥の固形燃料化と汚泥消化の特徴及び導入における留意点を述べよ。

(1) 上下水道事業に共通する課題(3つ)

①上下水道に携わる技術者の減少への対応

 上下水道に携わる官民双方の技術者は40〜50歳代が多く、人口減少などにより技術者は減少する傾向にある。今後長期的視点から上下水道事業を継続していくためには、ナレッジマネジメント、ICTの活用、官民連携などを行い、技術者減少に対応することが課題である。

■このページの①②は合格点取れています。

②上下水道施設の老朽化及び更新需要の増大への対応

 上下水道施設の多くが老朽化により更新時期を迎えている。

そのため、アセットマネジメント手法を採用し、施設のリスク評価や影響評価に基づき、更新需要を平準化するとともに、効率的な施設維持管理を実施することが課題である。

③財政収支の悪化への対応

 人口減少に伴い料金収入が減ることが想定される一方で、更新や維持管理に要する費用が今後増えることが想定される。

 支出削減のための民間活用や、簡易水道・人口3万人以下の下水道事業への複式簿記・公営企業会計を導入し、健全な財政収支を確保することが課題である。

■経営改善はわかりますが、技術士の貢献になるでしょうか。下水道工学の視点からの指導、改善提案はありませんか。

問題文 II-2-1 大規模な地震時においても下水道が有すべき機能を維持するため、既存の下水道施設への地震対策が必要である。そこで、重要な下水道施設の耐震化を図る「防災」と被災を想定して被害の最小化を図る「減災」を組合せた下水道総合地震対策を計画することになった。あなたが業務責任者として選任された場合、下記の内容について記述 せよ。

(1)調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。

(2)業務を進める手順を列挙して、それぞれの項目ごとに留意すべき点、工夫を要する 点を述べよ。

(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。

(1)調査、すべき事項と内容

■問題文にある「防災」と「減災」を組み合わせた・とはどいう意味かお考えですか。

目的が不明確なままで、とりあえず白紙から調べ上げてそれから考える・・では専門家、経験者の答えになりません。調べる前にシナリオ、ポイントを決めてかかることです。

①上位計画、関連計画の調査・整理:下水道処理区を所管する地域防災計画、都市計画、総合治水計画など、関連する計画を調査し、整理する。

②下水道施設諸元の調査、整理:下水道処理施設、ポンプ場、管きょなどの施設諸元を整理し、耐震化状況を調査する。必要によっては耐震診断を実施し耐震性を判定する。

③被害想定の検討:市町村によっては地域防災計画の想定地震が複数存在することがあるため、想定地震動を調査する。そのうえで、想定地震による下水道施設の被害想定について検討する。

(2)業務手順と留意点・工夫点

■BCPは大事ですが、すべてではありません。またここはケーススタディなので、BCPの一般論は不要で、下水道施設をどうするか(それだけ)を特論する必要があります。

 地震対策はBCP(業務継続計画)を策定したうえで実施することが望ましい。

 以下、事前対策と事後対策に分けて業務手順を述べる。

①事前対策(防災)

 施設の耐震化を行う。具体的には、管きょ人孔部の耐震化、処理場建屋の耐震化、監視制御設備にかかる回線の二重化、機械・電気設備の自家発電設備の設置などを行う。財政上の制約から一斉に耐震化や更新を行うことが困難であるため、優先度を評価して、順次耐震化を実施することが留意点である。

②事後対策(減災)

 BCPに基づき、災害発生後の段階に応じた対応を行い、おおむねRTO(目標復旧時間)内に復旧できるようにする。RTOは発災後おおむね1ヶ月後と定める場合が多いが、下水道施設の被害想定や影響範囲、住民アンケートなどによって決定するのが望ましい。被害想定を基に、他都市や業者、自衛隊などからの応援受け入れ状況を調査したうえで、RTO内に復旧するために必要な体制を検討する。

 発災後の対応のため、予め施設復旧用の資機材や処理薬品の調達状況などサプライチェーンの調査や、必要な資機材の備蓄を行っておく。必要に応じて災害時応援協定を締結し、迅速に資機材を調達できるようにしておく。また、災害後の事業の対応力向上のため、災害対策訓練を実施する。

 災害時の情報連絡を円滑に進めるため、予め情報連絡に用いる報告様式を定めておくのが望ましい。

(3)関係者との調整方策

 災害後の対応力向上のため、平常時より、応援自治体・業者や自衛隊などの関係者との災害訓練を定期的に実施する

 また、耐震化事業の実施にあたっては費用が必要であるため、その必要性や耐震化を実施しなかった場合のリスクについて、財政部局や住民に説明するリスクコミュニケーションを図ることが必要である。

■このような心構え、一般論となっています。ここは問2に書いた手順をどのように実行するかをお考えください。

問題文 III-2 下水道事業は、人口減少による使用料収入の減少、老朽化施設の増加などの背景からより効率的な事業実施が求められており、また、降雨の局地化・集中化・激甚化に対する新たな防災・減災のあり方を検討する必要がある。さらに、人口減少社会における汚水処理の最適化、エネルギー・地球温暖化問題への対応なども求められている。

これら様々な課題に対して、持続的かつ質の高い下水道事業の展開を実現するためにICTの活用が推進されており、下水道事業の質・効率性の向上や情報の見える化を進める 責任者の立場として、以下の問いに答えよ。

(1)ICTの活用を推進して対応すべき課題について、技術者としての立場で多面的な観点から3つ抽出し、その内容を観点とともに示せ。

(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

(1) ICTを活用して解決すべき課題

施設老朽化、耐震化への対

■老朽化、耐震化の必要性はともかく、ICTとは関係薄いのでは?ここはICTの活用を推進して対応すべき課題を端的に挙げるように。

 国内の多くの下水道施設が、高度経済成長期の拡張期に建設されたものであり、老朽化を迎えている。また、いまだに耐震化されていない下水道施設も多く存在する。

老朽化に対応し維持管理費用を低減させるため、ストックマネジメント手法などの導入が課題である。

②技術者の減少への対応

 下水道に携わる官民の技術者は40〜50歳代が多く、また、技術者数は減少の一途をたどっている。

そのため、ナレッジマネジメントなどにより技術の継承と技術力向上を図ることが課題である。

■ナレッジマネジメントで技術継承はともかく、ICTでなくともできることです。ここではICTをどう活用するか、その活用法について提案してください。

③財政収支の悪化への対応

 人口減少に伴う使用料収入が減少する一方で、今後の施設更新費用や維持管理費用が増大する可能性があり、財政収支の悪化が懸念される。

更新費用の平準化、維持管理費用などライフサイクルコストの削減、覆域簿記などの公営企業会計の導入によって、健全な財政収支を確保することが課題である。

■これも同じ。確かに下水道の課題ですが、この問題の主題のICTの活用との関係性が述べられていません。

(2) 最も重要と考える課題と複数の解決策

 最も重要な課題は前述の「(1)-①施設老朽化、耐震化への対応」である。下水道事業は国見が健康的に生活するためになくてはならないインフラ施設であり、処理を停止させると大きな影響が発生するからである。

 複数の解決策について次のとおり述べる。

■理由は不要です。

①ICT活用によるストックマネジメントの推進

GISや設備台帳システムを活用し、管きょ(布設位置、管種、建設年度など)や設備(建設年度、設備種類など)を収集整理する。管きょが埋設されている道路の重要度や処理停止による影響度を加味し、各施設のリスク評価を実施する。リスク評価結果に基づき、優先的に対応すべき施設に対して、スクリーニングを行う。管口カメラ調査などで劣化が進行している施設については、さらなる詳細な調査として、自走式カメラやUAVなどを用いて目視調査を行い、劣化度を判断する。必要な箇所の修繕や改築・維持管理についてストックマネジメント計画を策定し、実施する。

■①②はOKです。合格点取れています。ただし冗長なのでもう少し簡潔が良いでしょう。

②施設の監視制御設備導入による効率化

特に多くのポンプ場や設備を抱える場合、監視制御を集約する監視制御システムを導入することが解決策である。これにより施設の状況を把握し、エネルギー効率を考慮した取り替えを行う。広域化や共同化を行う際もスムーズに移行でき、施設老朽化に対応できる。

③浸水シミュレーションの精緻化

近年のICT技術の発展はめざましく、特にコンピュータの処理性能が向上している。そのため、分散モデルの採用など雨水流下シミュレーションの精緻化が可能となり、大雨時の照査降雨による浸水シミュレーションが実施でき、防災対策や耐震化の向上が図れる。

④施工自動化

CIMを用いた施設工事の施工自動化を採用することで、施設更新、耐震化の迅速化を図る。

⑤技術の継承

ナレッジマネジメントシステムの採用により、技術継承にあたってのベテラン職員の暗黙知の形式知化や、e-ラーニングシステムによる研修による技術力向上を図る。

(3) 新たに応じるリスクと対策

 サイバーテロが新たに応じるリスクの1つである。これによって関連システムが停止すると、下水処理自体が停止し、大きな影響が発生する可能性がある。

■サイバーテロは今や常識です。技術士問題の答えになりにくいです。一方、解決策は難解で水道部門では歯が立ちません。現実には下水道技術士の出る幕はないでしょう。ですので、提案はできても有意義な議論はできません。

 そのため、サイバーテロに対する情報セキュリティの強化、ISMSに基づく下水道技術者への教育訓練を図る。またICTが使えない場合でも非常時優先業務が実施できるよう、BCPの対象事象にサイバーテロを追加する。

さらに、ICT導入によりベンダーロックとなり、今後の維持管理費用が増大する恐れがある。そのため、データやシステム仕様の標準化などの対策を図る。

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