この日のコーチングによる指導時間は16時00分から、48分間に行なわれ,その受講者様は鉄道設計技士部門、鉄道電気科目を目指す方で、場所は神奈川からライン電話を用いて相談されました。あらかじめお送りいただいていた業績技術チェックシートは次のような項目からなっていました。
1. 名称、時期
2. 立場 (指導監督的立場がわかるように)
3. 業務概要
① 概要
② 規模、仕様
③ 応用した技術
④ 技術貢献したこと
⑤ 成果
4. 技術的問題点と解決方法
4-1 技術的問題点(目標と現実の差、被害、望ましくない状況。業務課題ではない)
4-2 解決策(技術的提案、4-1を改善に導いた方策)
4-3 苦心した点(解決策を遂行する上で工夫した事)
5. 解決策の妥当性
6. 現時点での評価(技術や社会情勢の変化、自分のレベル向上を考慮した上での反省点)
7. 現時点での改善策(最新の解決方法、法規制、コスト安、海外輸入品など)
8. 技術的課題、将来展望(まだ残っている改善すべき点、今後の動向予測)
これらについて、順次話し合いながら指導しました。
このうち業務概要について次のようにコメントしました。それぞれ解答として書tしかれていた内容と、コメントを併記します。
① 概要
今回、非電化・電化区間を走行する車両の環境負荷低減や車両運用・保守の効率向上を目的として男鹿線へ交流電化用蓄電池電車システムを導入した。蓄電池電車の導入に伴い、非電化区間である男鹿線を走行した後に、折り返し運転のための電力を充電する必要があった。そこで、男鹿駅に蓄電池電車充電用変電所(以下、充電用変電所)を新設するとともに、男鹿駅構内で地絡が発生した場合でも人体や信号設備などに影響がないよう充電用変電所の地絡保護システムと地絡保護装置を開発した。
当初書かれた内容が「概要」の範囲を超えて仕事の成り行きや目的、問題点に関する指摘まで発散していたため取消線で消して、重要箇所に絞り込むことにしました。
ここでは仕事の成り行きではなく、ご自身の業績の柱が何であるか、そして鉄道設計技士として行った内容についてまとめます。
② 規模、仕様
充電用変電所の新設に伴い駅構内の上り一番線のみ電化し、剛体架線により蓄電池電車を充電することから、男鹿駅構内で地絡が発生した場合にホーム上のお客さまや構内の信号設備に影響がないようレール・大地間の電位を瞬時に0とし、地絡電流を遮断する対策が必要であった。
こちらも施設の目的や対策の必要性に発散するのではなく、変電所の設備の大きさや性能のグレード、あるいは計画する上での難易度を表すような仕様について表現してください。
③ 応用した技術
直流変電所にある地絡過電圧の継電器や線路沿線にある電車線用保安器といった既存技術を改良・組合わせて、線路沿線で発生する地絡を電位差により保護できるシステムを考えた。
「既存技術を改良・組合わせ」とありますが、電気工学の技術体系の中でどのような技術名なのか、技術名や原理、法則名などを表すと良いでしょう。地絡を電位差により保護できるシステム・・は成果物としての目標であって、それを作るための技術が何であるかは、目標がわかっても技術まではわかりません。
④ 技術貢献したこと
これにより、充電用変電所から離れた男鹿駅構内で地絡が発生した場合でも地絡を検知し、お客さまや信号設備への影響をないようにし、地絡をすぐに遮断できる。また、上記のシステム及び保護装置は、現地で模擬地絡試験を行い、正常に機能することを確認した。
「業務の結果、設備が正常に作動した」では、当たり前すぎて貢献を訴えることはできません。そこで、他の人とは違う私だけの独創的な貢献によって業務の成果がもたらされた・・・・と表現してください。
⑤ 成果
これにより、地絡等の事故が発生した場合でもすぐに地絡を保護できることから、鉄道の安全・安定輸送に大きく貢献した。
地絡設備なのですから地絡事故が発生した場合すぐに地絡を保護できる事は当たり前です。そのことは仕事の目的であって、ここで言う成果とはなり得ません。
この論文は個人の業績を評価して、そのコンピテンシーを採点するものですから、一般的なエンジニアより、高い貢献を行った事を表現しなければなりません。そのための成果であるため、他のエンジニアより優れた経済性やスピード、性能を達成した事を表現してください。すなわち、
というような、経済性に関わる品質項目がどれだけアップしたかを定量的に表すのが良いでしょう。
指導の内容は以上です。本研究所では受講生様の進度に合わせて指導しています。論文の書き方や業績の表現方法を理解していないと、あれこれと書きたいことがたくさん出てきて内容が散漫になってしまいます。このため論文の狙いを定めて内容を絞り込む必要があるのです。業績についてこうした新しい視点が必要と判断したときは、随時電話、スカイプにてご相談の時間を持つように講師の側からお知らせしております。このような方法で鉄道設計技士合格への道が最短となるよう努めています。