総合技術監理部門 H26年 2014年
問題文 Ⅰ−2
21世紀を展望するとき,人口減少が我が国の将来に大きな影響を及ぼす問題であることは論を待たない。我が国の人口減少問題は人口構造の変化を伴い注),それらが直接,間接的に社会・経済に大きな影響をもたらす。
既設の施設や建造物,設備の「更新」を考える際,更新後の寿命が長期(例えば30年とか,50年とか)にわたるならば,このような人口減少問題がもたらす社会・経済へのさまざまな影響を総合的に検討し,最適な対応策を提案することは,総合技術監理部門の技術士に要求される重要な業務の1つとなろう。
そこで「人口減少問題がもたらす社会・経済への影響」に対する考察を踏まえ,あなたが対象とする施設,建造物又は設備の更新プロジェクトあるいは更新事業を選び,その更新プロジェクトの策定段階(又はその更新にかかわる設計段階)において配慮すべき社会・経済への影響及びそれに対する「対応策」について,総合技術監理の視点から以下の(1)〜(3)の問いに答えよ。なお,ここでいう総合技術監理の視点とは,「経済性管理」,「安全管理」,「人的資源管理」,「情報管理」,「社会環境管理」の5つの管理分野からの視点をいう。(問いごとに答 用紙を えて,それぞれ指示された枚数以内にまとめること。なお,書かれた論文(あなたの解答)を評価する際,記述の論理的なつながり,工夫をこらした対応策の提案,そして論文全体としてのまとまり,を特に重視する。)注)人口構造の変化とは,日本全体あるいは特定地域における人口の減少,少子高齢化,人ロピラミッドの変化,若年齢層・生産年齢層・高年齢層の人口の変化などを指す。4/4頁の図1(日本の総人口及び年齢3区分別人口の推移)を参照されたい。
(1)あなたが取り上げる更新プロジェクト又は更新事業の計画(以下,「更新計画」という。)の内容を次の①,②に沿って設定し,答安用紙1 以内に説明せよ。(2)以降の問いの解答に必要な設定や背景があれば,それも記すこと。なお,あなたの立場は,「更新計画」の総括責任者あるいはそれと一体となって「更新計画」を推進する総合技術監理部門の技術士であり,「更新計画」のリスクを他に転嫁できないものとする。① 更新に際し人口減少が及ぼす影響が大きいと考えられる「更新計画」の対象を,表1に示したものを参考に1つ選べ。なお,表1は例示であり,この中から選んでもよいし,それ以外のものを選定してもよい。② 選定した対象の「更新計画」について,その具体的な内容を設定せよ。設定に当たっては,対象の機能,規模,特徴のほか,その「更新計画」がおかれている背景状況についても記述すること。
表1 更新が必要となる施設,建造物の例
水道網,電力送電網,通信網,鉄道路線,自動車専用道路網,空港,港湾,橋梁,河川堰,ニュータウン,駅舎(駅ビル),市町村役場,図書館,公民館,学校,病院,体育館,博物館,美術館,映画館,ホテル,複合商業施設,集合住宅,発電所,製鉄所,化学プラント,工場
注)ただし,これらの施設,建造物の中の各種設備も対象とできる。
(2)我が国の人口減少又は人口構造の変化が,直接,間接に社会・経済へ及ぼす可能性がある影響の例を表2に示す。(1)であなたが設定した「更新計画」の策定段階(又はその更新にかかわる設計段階)において配慮すべきこのような「人口減少が及ぼす社会・経済への影響」(以下,これを単に「社会影響」という。)について,次の①,②に沿って答案用紙1枚以内に説明せよ。 ① 表2を参考にして,以下で議論する「社会影響」を2つ選べ。なお,表2は例示であり,この中から選んでもよいし,それ以外の社会・経済への影響を選んでもよい。
② 各々の「社会影響」に対し,人口減少や人口構造の変化がどのように影響を与えるのか,その理由及び想定される影響の程度を,簡潔に説明せよ。また,その「社会影響」が(1)で設定した「更新計画」とどのように関わるのか,簡単に説明せよ。
(3)(2)で選んだ2つの「社会影響」に対して,(1)で設定した「更新計画」の策定段階 (又はその更新に関わる設計段階)において提案すべき「対応策」とその効果について,各々の「社会影響」ごとに,次の①,②に沿って説明せよ。なお,説明は「社会影響」ごとに行い,2つの[社会影響]合わせて答案用紙3枚以内にまとめること。
①「社会影響」に対する「対応策」を提案せよ。ただし,当該「社会影響」ばかりでなく他の懸念材料に対する配慮や新しい機能の付加などを含めた,より広い視点から工夫した対応策であることが望ましい。
②提案した「対応策」の提案理由及びその予想される効果(負の効果を含む。)を説明せよ。この際,総合技術監理の5つの管理分野のうち2つ以上の管理分野の視点からの考察を含めること。また,生じる可能性のあるトレードオフ及びその他の留意点についても言及すること。
模範解答1 簡易答案形式 (建設・道路 専門事項: 道路構造物、道路管理)
(1)更新事業の計画
①更新計画 橋梁
②更新計画の内容
対象の機能:橋梁の健全性を確保し通行の安全を保証する。
規模:県が管理する県内2654箇所の橋梁の内、必要な100橋を対象
特徴:橋梁建設後50年を経過した割合が現在2割であるが、20年後には約6割となり老朽化がさらに進展
背景:経年により老朽化が年々進行し健全性が低下し潜在的な落橋等のリスクが高まり、顕在化した場合、交通へ多大な影響が生じる。
(2)社会影響
①人口減少地域の拡大
2050年では現在より約25%人口が減少するが、人口が減少する地域の割合は、6割の地域で現在の人口が半減し、また2割の地域が無居住化する。
よって、橋梁の更新計画への影響として、人口減少による税収不足による橋梁更新の鈍化と、地域の人口減少を考慮した計画の必要性が生じる。
②労働力人口の減少
A2050年では生産年齢人口が現在より約4割減少することにより、技術者や作業員も同様に減少する。
よって更新計画の実施にあたり、労働力の減少により、工法や人的資源において機械化や効率化の影響が生じる。
(3)更新計画における対応策
①人口減少地域の拡大
①−1.対応策
・将来交通量の予測を行い交通量により重点的に管理。
・予防保全により橋梁の長寿命化。
・無居住化の予想地域により計画的に橋梁撤去
① −2.提案理由と予想される効果
② −2−1 提案理由
人口減に伴う税収不足による財源難に対応するため、更新計画が効率的に低コストで行えるからである。
① −2−2 予想される効果
(効果)縮小された予算の中で効率化を図ることにより必要とされる更新が行われ、少ない橋梁で必要なサービスが行われる。
(負の効果)橋梁の重点化管理及び老朽橋梁の撤去は、道路の信頼性低下や寸断を生じ、災害時の迂回路等の代替路としての信頼性が低下する。
(トレードオフ) 更新計画の効率化によるコストの減少は、道路ネットワークの信頼性の低下を生じる。そのため、リスクマネジメントを実施し、信頼性を高めるためリスク対策を行う。
(その他の留意事項)更新計画の策定は、道路ネットワークの見直しや路線の信頼性リスクの高まりが生じるため、市民との合意形成に向けたリスクコミュニケーションを図ることが必要である。
②労働力人口の減少
②−1対応策
・若年層、女性層、シニア層の労働力を活用するため、職場環境の形成や、建設ICTによる情報化施工により生産性の向上を図る。
・企業の情報を開示し雇用のPRを行い、社会的認知を高める。
②−2提案理由と予想される効果
②−2−1 提案理由
労働力となる各層に対し支援や情報提供により就労を促し、労働力の低下の緩和を図るため。
②−2−2 予想される効果
(効果) 労働市場の労働者のひっ迫状況を緩和することができ、人件費の高騰を抑えることにより企業の競争性を高め、また建設ICTの活用より3Kの脱却を図ることができる。
(負の効果)人的資源計画においては、各層に応じた就労時間や福利厚生施設、また賃金体系の構築が必要となり労務管理が難しくなる。
(トレードオフ)業務の機械化や高効率化を図ることにより、個々の業務が機械化されインセンティブを持ちにくくなる。そのため、行動科学的アプローチや非公式組織の人間関係の円滑化を図る。
(その他留意事項)合理化や効率化による労務環境の変化に対する従業員のメンタルヘルスに留意し、精神疾患などの発生予防、早期発見、早期治療、職場復帰の段階的な対応整備を行う。
模範解答2 答案形式 (建設・道路 専門事項: 道路構造物、道路管理)
(1)更新事業の計画
①更新計画 橋梁
②更新計画の内容
②−1 対象の機能
道路橋の構造物としての健全性を確保することにより、通行する車両や人等の安全性を維持し、ネットワークとして道路が機能し続けるよう、橋梁の機能を保証する。
②−2規模
県が管理する県内2654箇所の道路橋の点検を行った結果、健全度が低く補修が必要な100橋を対象とする。
さらに5年に1回の定期点検により更新計画の見直しを図ることとし定期的に更新を行っていく。
②−3特徴
橋梁建設後50年を経過した割合が現在の時点で2割を占めているが、20年後には約6割となり橋梁の高齢化が急速に進展する。
②−4背景
今後、管理橋梁の高齢化が急速に進むことにより、経年により劣化する橋梁が増大し、さらに交通量の変動や気象条件等が橋梁の健全度の低下に影響を与え、潜在的な機能不全や落橋等のリスクが高まることが予想される。リスクが顕在化した場合、道路交通へ多大な影響が生じることとなる。
(2)社会影響
①人口減少地域の拡大
2050年では現在より約25%人口が減少し人口は約9千5百万人と予測されている。さらに、人口が減少する地域の内、6割以上の地域の人口が半減し、また約2割の地域が無居住化することが予測される。
このことは、橋梁の更新計画対して大きな影響を与えることとなる。先ず第一に人口減少による税収不足により橋梁更新計画が鈍化する恐れが生じ、通行の安全性が低下が不安視されることとなる。また、第二に地域の人口減少を考慮し、交通量の減少による更新計画を検討する必要性が生じる。
②労働力人口の減少
2050年では生産年齢人口において、現在の約4割に当たる約3千2百万人の人口が減少することが予測され、建設技術者や建設作業員も同様に減少することとなる。
このことは、更新計画の実施において、労働力の減少により技術開発の進展の必要性が高まり、機械化やロボット化さらに業務の高効率化が進むことが予測される。そのため、工法の採用や人的資源を活用において、賃金体系や労働時間、職場環境などの労務管理に適切な対応の必要が生じると考えられる。
(3)更新計画における対応策
①人口減少地域の拡大
①−1.対応策
・将来交通量の予測を行い交通量により重点的に管理する橋梁を選定する。
・予防保全により橋梁の長寿命化を図る。
・無居住化が予想される地域は橋梁の撤去を計画する。
① ―2.提案理由と予想される効果
① −2−1 提案理由
人口減に伴う税収不足による財源難に対応するため、更新計画を効率的に低コストで実施することが出来るからである。
① −2−2 予想される効果
(効果)
縮小された予算の中で効率化を図ることにより必要とされる更新が行われ、又、少ない橋梁で必要なサービスが行われる。
(負の効果)
橋梁の架け替えが減少し、ベテラン技術者の退職や若手技術者の減少、さらにコンピューター化や技術の細分化により、今まで実施されてきたOJTによる暗黙知も含めた技術の継承が難しくなり、これまで積み上げられた橋梁建設技術の伝承が困難となる。
(トレードオフ)
更新計画の効率化によるコストの減少を図ることは、道路ネットワークの信頼性の低下を生じることとなる。
そのため、代替路線のリスクマネジメントを実施し、リスク評価を行い、信頼性を高めるため斜面対策等の対応策を実施し、安全度を高めると言ったリスク対策を行う。
(その他の留意事項)
更新計画の策定については、橋梁を適切に管理し資産として運用して行くための方針と目的を明確にした分かりやすい正確な情報の提供を行い、市民との合意形成に向けたリスクコミュニケーションを図ることが必要である。
②労働力人口の減少
②−1対応策
・若年層、女性層、シニア層の労働力を活用するため、職場環境の形成や、建設ICTによる情報化施工により生産性の向上を図る。
・企業の情報を開示し雇用のPRを行い、社会的認知を高める。
②−2提案理由と予想される効果
②−2−1 提案理由
労働力となる各層に対し支援を図り、情報提供を行うことにより就労を促し、労働力の低下に対する緩和を図るためである。
②−2−2 予想される効果
(効果)
労働市場の労働者のひっ迫状況を緩和することができ、また人件費の高騰を抑えることにより企業の競争性を高め、さらに建設ICTの活用より危険・きつい汚いと言った3Kイメージからの脱却を図ることが出来ることとなる。
(負の効果)
人的資源計画においては、各層に応じた就労時間や福利厚生施設、また賃金体系の新たな構築が必要となり繁雑さや調整事項が多大となり労務管理の難しさが増すこととなる。
(トレードオフ)
業務の機械化や高効率化を図ることにより、個々の業務が規格化されインセンティブを持ちにくくなり、返って生産性が低下する可能性がある。
そのため、Y理論を活用した行動科学的アプローチや非公式組織に対して支援を行うことにより組織の人間関係の円滑化を図る。
(その他留意事項)
若者、女性、シニア層に労働力の活用に当たっては、能力が十分に発揮できるように多様な働き方を検討する。従来からの労務管理に加え、勤務時間限定、勤務地限定、職務限定や在宅勤務と言った方策を検討し導入を図る。
模範解答3 簡易答案形式 (建設・施工 専門とする事項: 施工計画)
1枚目
(1)更新事業の計画
①人口減少が及ぼす影響が大きいと考えられる更新計画
:複合商業施設
②更新計画の具体的な内容(機能、規模、特徴)とその背景
築35年ほどが経過した複合商業施設の更新工事。規模は地上5階建てで、延床30,000㎡程度。既存の施設は飲食店を中心にボーリング場、遊技場、映画館、劇場などであり、躯体における耐震補強も合わせて、内部の全面的リニューアルを実施する。外装においても更新を実施し、安全性と美観性の向上を図る。実施に至る背景は、時代の流れと共に大型劇場の集客力が減少し、映画館もより視認性・快適性に優れたシネマコンプレックスが主流となってきた。また人口減少に伴う少子高齢化が進行し、各世代が連れ立って楽しめる店舗のニーズが高まり、全面更新に至ったものとなる。
2枚目
(2)人口減少が社会・経済へ及ぼす可能性のある影響
①検討すべきと思われる社会影響
ⅰ)地域の高齢化(地域や都市に与える影響)
ⅱ)労働人口の減少(経済や財政に与える影響)
②上記に対し人口減少や人口構造の変化が与える影響について
ⅰ)地域の高齢化
1理由:人口減少により生産人口も比例して減少することにより、地域の高齢化進むこととなり、当該地域での職が減少し若年層の都市への人口移動が顕著となる。
2影響の程度:人口減少の進行に伴い人口構造が今後釣鐘型からつぼ 型へ移行し、2030年には1/3が65歳以上の超高齢化社会となるため、工事周辺環境への高齢者対策にかかるコストが上がる。
3更新計画との関わり:高齢者の割合が増加する人口構成に対し、安全で
安心出来る工事の体制・周辺環境を確保することが重要となる。
ⅱ)労働人口の減少
1理由:人口減少に伴う生産人口の減少により社会的に労働力が不足する。
2影響の程度:生産人口の減少により、建設業にとっては労働力不足と労
務単価の向上が進捗し、製造コストが上がる。
3更新計画との関わり:労働力不足による工程遅延影響及び労務単価の
高騰に対し、施工効率向上に向けた対策が重要となる。
3〜5枚目
(3)更新計画で検討すべき社会影響に対する対応策とその効果
① 社会影響に対する対応策(懸念材料に対する配慮や新しい付加機能)
ⅰ)地域の高齢化に対する対応策
【工事エリア周辺の安全・安心を確保するための対策】
・既存の撤去に伴う有害物質(アスベスト、PCB等)の取り扱いに関わる個別
説明や情報公開の徹底。
・周辺通路の段差解消、通路勾配の緩和、車いすに配慮した安全通路、工
事のための迂回時の誘導の実施。
・工事車両の搬出入によるゲート等での事故のリスクを低減するため工事用
車両を削減する。そのため部材のPC化やユニット化など工場製品の採用。
(懸念材料・・・安全対策へのコスト増、付加機能・・・周辺環境の保全)
ⅱ)労働人口の減少に対する対応策
【若年層及び高齢者・女性の取り込み】
・工場製品の採用を計画し重労働を含む3K環境を改善する。
・専門就学者(専門学校や工業高校)の見学会等に追加し、一定期間のイン
ターンシップを受け入れ‘建設業を知る体験’の整備。
・高卒就業者3年目までの離職率(48.5%)を低減するため、部門間ローテー
ションを実施し、企業内における適正職能発見の場の創造。
(懸念材料・・・建設産業の魅力の創出、付加機能・・・技術の伝承)
② 対応策の提案理由及びその効果(負の効果含む)
ⅰ)提案理由と予想される効果(5つの視点から2つ)
提案理由は高齢者に対する対策が、それに限定することなく、交通弱者全体
に対する効果に繋がるため。効果としては周辺環境の美化や工事車両削減
による間接的CO2の縮減。
(安全管理、社会環境管理)
ⅱ)提案理由と予想される効果(5つの視点から2つ)
提案理由は高齢者や女性の就業率向上によってダイバーシティ効果による
企業イメージが向上するため。効果は、そのことによる離職率の低下と工場
製品を採用することでの重労働低減による職場環境の改善及び現場からの
建設副産物の縮減。
(経済性管理、人的資源管理)