総合技術監理部門 H21年 2009年
技術士二次試験模範解答 総合技術監理部門 H21年 2009年
複雑化し相互依存性の強い現代社会では,一見関係性が少ないと思われがちな事象の発生も,時として前提とされていた事業環境を急速かつ広城に変化させ,事業結果や社会へ多大な影響を与える場合がある。
このような現代社会において,各種のプロジェクトや業務を遂行するに当たっては,その基盤となる前提(社会動向,社会制度,経済状況,技術革新,自然環境,経営資源など)を適切に考慮し,技術の適用を慎重に行っていく必要がある。
また,この際,あらかじめ前提や環境の変化を想定し検討しておくことは,考慮する前提や環境の変化は,自らのコントロール下に置けないとしても,次善策への展開などにおいて有益であることを忘れてはならない。
以上の観点を踏まえて,あなたが経験した,あるいは経験をしなくとも知見を持つプロジェクトや業務を念頭において,総合技術監理の視点から次の(1)〜(3)の問いに答えよ。 (それぞれの問いについて,指吊された答案用紙の枚飮以内にまとめること。)
ここでいう総合技術監理の視点とは,「経済性管理」,「人的資源管理」,「情報管理」,「安全管理」,「社会環境管理」の5つを言う。
(1)あなたが対象とするプロジェクトや業務の中で,不測の事態が発生して多大な影響を与えたもの(下図のAケース)や,不測の事態が発生したが放置せず対処したので多大な影響に至らなかったもの(下図のBケース)のどちらか1つを取り上げて,そのプロジェクトや業務の概要と発生事態の具体的内容を答案用紙丿枚にまとめよ。
ここで言う「不測の事態」とは,プロジェクトや業務の開始時点では,「想定できなかった事態」,「想定したが考慮しなかった事態」,「想定したが事前準備できなかった事態」のいずれかを指すものとする。
さらに,例えば「環境規制の強化によって事業途上や完了後に不適合となった」,「プロジェクトの前提としていた技術に対抗する革新的な技術の台頭によって技術が競争力を失った」,「想定外の経営資源の不足が発生し,事業に影響を及ぼした」,「事故原因として想定したが組織の対応として不十分なものとなってしまった」などのようなケースを想定しており,日常業務の小さなトラブルを言うものではない。但し,小さなトラブルの連鎖や同時発生によって,思いも拠らない結果に至りうるケースなどは本対象に当てはまる。
(2)(1)で挙げたプロジェクトや業務について,不測の事態が発生したことによる影響と,不測の事態を事前に想定できなかった原因あるいは想定していても準備できなかった原因を答案用紙2枚にまとめよ。
なお,想定できなかった(準備できなかった)原因の記述は,単なる見落としのような表面的なものではなく,その背景にある真の原因を幅広い視野で構造的に捉えて,体系的に記すことが望まれる。
(3)(2)の検討を踏まえて,そのプロジェクトや業務の計画の時点に戻ったとしたら,総合技術監理分野の技術者として,どのように各種の前提を想定するべきか,総合技術監理の5つの視点のうち,3つを用いて具体的な想定方法を答案用紙2枚にまとめよ。
ここで求める想定方法とは,対象とした不測事態だけではなく,あなたが(2)で記したものと同様の原因構造を持つようなものも拾い上げられるように,幅広く想定外をなくすためのものが望まれる。
模範答案1 機械・動力エネ 専門 ガスタービン
1. 不測事態が発生した業務の概要(多大な影響に至ってしまったケース)
ガスタービンに燃料用の都市ガスを供給する過程で加圧するためにガス圧縮機を使用する。そのガス圧縮機は、専門メーカからの購入品である。
日本国内でのガス圧縮機メーカは主流として3社あるが、数年前に価格の安い外国製品が市場に出回るようになってきた。
国内でのガス圧縮機メーカ間の価格競争が激化し、各社生き残りを賭けてシステムの品質機能展開を図った。その際、コストダウンの理由から油分離器の簡略化が行われ、市場の標準となった。
新規のシステムを導入して2年程度経過したころから、ガスタービンの燃焼器に亀裂や変形が生る問題が発現した。
ガス圧縮機から都市ガスに混入する潤滑油が、ガスタービン燃焼器内部で異常燃焼を起こしたことによる事故であった。
対策として油分離器の改善が必要になったが、工事を含めて膨大な費用の発生が見込まれた。
自社内部でコスト、対策方針(品質)、実施時期(納期)などの検討に時間を要している間に、他の顧客への情報開示が遅れ、顧客間で憶測や不安が広がり、危機感をもった顧客から早急な対応を要求され、組織総力をあげての緊急対応となった。
2−1不測事態が発生したことによる影響
① 工程管理の混乱
ガスタービン内部点検結果、燃焼器損傷への影響程度に応じて、緊急性の高い顧客から順次対策えるように速やかに情報を提供して日程調整すべきであった。
顧客間での不安やバイアスにより緊急対応要請が集中した。
対策時期が集中化したために、部品の手配・調達業務及び作業員の労務管理が混乱した。
② 企業の信用喪失
憶測や間違った判断が先行して、複数の顧客を混乱させ、企業の信用も喪失する問題に発展した。
③ 人員手配の混乱
対策工事を客先の要求に合わせて一斉に実施することになったため、ガスタービン内部点検など高度な作業を行う、熟練技術者に負担が偏った。
そのため、協定を超えての労働時間延長など労働安全衛生管理上の問題が顕在化した。
2−2不測事態を想定していても準備できなかった原因
国外製品のガス圧縮機には、大型の油分離器が1個で、内部にはガス中の油を衝突分離させる構造となっており、油分離機能が強化されているとの説明であった。それまで、国産の油分離器は、2個を直列に配列して油分離効率を向上させる方式であった。
国産メーカでも原価低減の観点で、油分離機能を強化した油分離器1個方式を採用して、それが市場で主流となった。
新規のシステムを採用するにあたり、各メーカから説明を受け、新規システムをと従来方式との性能、機能比較を行ったが、カタログ上での要目に大きな相違はなかった。また、短期間ではあるが、試作段階での油分離分析結果も従来方式と遜色ない数値であった。
ただし、市場に出て間もないために実績はなく、他所でのトラブル事例は発現していなかった。
競争激化にともない、各社ともに、コスト低減を前提とした製品開発が優先され、品質機能展開評価が充分ではなかった。
競争激化すると品質が低下するという基本原則が読み取れなかった。
3.計画に戻ったときどのように前提を想定すべきであったか
競争激化すると品質が低下することを前程として、慎重に部品を選ぶ。
3-1安全管理
・「競争激化すると品質が低下する」ことを前提としたリスクアセスメントを実施する。
リスク管理行動指針として、ステークホルダの利害保全、自組織の信頼性確保、経営資源の確保など明確にする。
実績のない新システムを採用した市場に内在するリスクを社内の設計検証会議において、ブレインストーミングリスク方式で意見を出し合い、ハザードを特定する。
・システム安全工学手法により、新しく採用した部品が破綻した場合を初期事象に設定して、予想される事故を順次進展シナリオとして、ハザードを特定する。
3-2経済性管理
・開発・設計段階で品質を確実なものにするために、実験計画法など統計的手法により確認する。
新システムと旧システムの相違項目を因子として、その影響度の違いを水準としたプロファイルから特性を把握する。
・品質管理:新QC7つ道具を活用して、設計段階で、潜在化する問題を明確にする。
チェックポイントとして新システムと旧システムの特性(コンパクト性、油分離機能など従来と相違する項目)を上げる。評価項目として、効果、実現性、経済性などをマトリックス図として着目点を明確にする。
整理された着目点の中から内在するリスクの特定に結び付ける。
3-3情報管理(通常業務における情報管理)
・リスクに関する情報の収集と整理:組織における意思決定のための情報を体系的に把握する。
意思決定に必要な項目として、装置の新システムと旧システムの相違点に内在する問題別分類の検討を行う。
「業務レベルとしては、品質管理で得られたリスク情報にもとづくリスクの特定」、「管理レベルとしては、問題の発見と対策の実施」、「戦略レベルとしては、市場浸透に向けての技術的差別化」をあげて、新規システムを採用することによるリスクの特定とリスク低減対策の実施を決定する。
以上