問題文 Ⅱ-2-1 (2枚以内にまとめよ)
実験装置の老朽化、出力不足に対応するために新たに高出力の動力制御機械装置を導入することになった。設立当初の近隣環境は田園地帯であったが、最近では、すっかり住宅地化し振動・騒音に対する要求も厳しくなっている。あなたがこの高出力の動力制御機械装置を導入するプロジェクトの総責任者として進めるにあたり、下記の内容について記述せよ。
(1)調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順について、留意・工夫する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
模範解答1 (答案形式) 添削履歴 4回 2019.8.13 専門事項 精密機器開発
(1)動力制御機械装置の導入で調査・検討すべき事項
①動力制御機械装置の振動、騒音の発生要因: 導入装置の振動や騒音の要因とその発生個所を考察し、その低減策を調査・検討し、適正値を管理する。
②環境に対する要求: 地方自治体毎に、装置導入予定地の区域と時間帯に応じて、振動/騒音の規制値が定められている。最低限満たすべき規制値を調査する。
③導入場所や導入方法: 導入装置の振動・騒音レベルによっては、従来と同じ設置場所では十分な防振・防音対策を施せない場合もあり得る。大がかりな工事が必要になることも想定し、地盤も含めた導入場所や導入方法、工法、工期などを調査、検討する。
(2)業務手順で留意・工夫する点
1.動力制御機械装置に求められる要件の明確化: 過剰性能は騒音・振動につながる。不要な騒音・振動対策をしなくて済むように、導入装置を導入する上で業務上必要となる性能(出力、用途)、稼働時間(昼間だけか、夜間か)等の要件を明確にする。
2.騒音・振動の目標値設定と環境アセスメント: 住宅地環境を維持するため、規制値を参考に、企業目標値を定義し、予め、環境アセスメントを行う。
3.導入装置における振動・音響シミュレーション: 振動、騒音は、モータなどの駆動源と機構の共振や、振動の伝達、放射面からの空気中への放出音が原因である。このうち、共振の低減策が防音・防振には最も効果的である。モーター周波数の変更や、機構変更や部材の材料変更による剛性アップや軽量化等を検討する。また、装置での防振・制振も検討する。いずれも、数値計算を行うことで効率的に進める。
4.導入装置の外側での騒音・振動対策: 上記3の装置側の対策で不十分な場合がある。導入装置〜設置面の間の防振や防音BOXの設置、建物の遮音、防音壁の設置等の設置工事による対策を検討する。
5.地域住民に配慮した装置導入: 住民への事前周知を徹底するとともに、搬入時の騒音振動対策を行う。
(3)関係者との調整方策
①省庁、公的機関への相談: 騒音規制、振動規制の他、地方自治体毎に定められている条件があるため、届出判断に際して、導入予定地の公的機関に確認する。
②動力制御機械装置のメーカー、業者への相談: 上記(2)-1, 2で定義した装置要件および騒音・振動の目標値に見合うよう、動力制御機械装置の仕様変更について、上記(2)-3の検討結果をもって業者に相談する。カスタム変更について提案してもらい、詳細を決定する。
③周辺住民向け説明会の開催、窓口設置: 工事開始前に周辺住民に説明会を開催する。新規装置導入計画と共に、規制値以内である環境アセスメント結果を示す。窓口設置により住民との共生、良好な関係の維持に努める。
模範解答2 (簡易答案形式1) 添削履歴 4回 2019.7.26 専門事項 光学機器開発
1. 調査、検討すべき事項とその内容
(1)装置から発生する音、振動を低減する除振台、無響室を調査、検討する。
(2)音、振動を外部に漏らさない方法。
①実験棟の共振周波数が装置から発生する振動の√2倍以上になっているか調査、検討する。なっていなければ、√2倍にする方法を調査、検討する。
②防音壁を調査、検討する。
(3)装置会社に低音、除振のオプション、ノウハウがないか調査検討する。
2.手順及び留意点・工夫点
(1)手順1:法定値に収まる目標を定める。
留意点・工夫点:測定方法、条件も法定に従い一意的に定まる様にする。
(2)手順2:上述した調査、検討すべき事項を実施する
留意・工夫点:既存の方法にとどまらず、アナロジーで対応する。例:カメラ手振れ防止同様、除振台の振動を検知しそれを打ち消す方向に動かし除振する。
(3)手順3:上述の検討結果及び費用対効果を勘案し方法を決定し実行する。
留意・工夫点:費用には対策に係る維持費用も勘案する。
3.業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策
(1)装置メーカとの調整方策
低音、除振対策をした場合のトレードオフの解決法について調整する。
(2)建物業者との整合
カスタム最適化の低音・低振動のための改築施工ができないか調整する。
模範解答3 (簡易答案1) 添削履歴23 作成日2020/5/13 機械部門 科目:機構ダイナミクス・制御 専門事項 精密機器
1.調査、検討すべき事項とその内容
(1)新装置からの騒音振動の発生原理を解明し、低減する方法を調査・検討する。
(2)近隣住宅地での騒音振動を予測し法規制値以下にする防音防振対策を検討する。
(3)高出力実験の回数を低減させるための方法を調査・検討する。
2.業務を進める手順について、留意点・工夫を要する点
手順1:FTAで新装置からの騒音振動源要因と伝搬要因を推定する。
手順2:それら要因を対策する為に新装置に防音防振部材の効果的な付加方法をCAEで検討し、その結果放出される振動騒音を見積もる。
手順3:現有装置の実測値から振動騒音が住宅地まで伝搬すると何%減衰するか推定し、手順2で見積もった値が住宅地でどれだけになるか見積もる。
手順4:手順3で法定値以下と見積もれたら新装置や防音防振材を施工する。
手順5:高出力実験の回数を減らす実験計画法の検討、数値実験に代替するためのシミュレータの調査、更に相似則を活用した低出力での代替実験を検討をする。
3.業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策
(1)装置メーカから新装置の3D-CADデータを購入し防音防振部材施工メーカに提供する。これにより防音防振部材施工メーカのCAEによる施工設計が効率的・効果的になる。3D-CADデータが近隣環境保全の為に必要である旨を設備部門に説明し3D-CADデータ分の追加予算の承認を促す。
(2)総務部門がコンプライアンスの観点で法定値よりも更なる騒音低減を主張する。一方設備部門からは法定値を満たす以上の防音対策費用は出せない旨主張する。そこで防音対策は法定値対策のレベルでとどめておく。一方騒音の減衰率の大きくなる風向きの日に実験をする様に新装置運用ルールを定める。これにより防音部材施工を最小限に抑えられることで設備部門の主張を満たし、同時に総務部門の法定値よりも更なる騒音低減を達成できることで、両部署の理解を得る。よって新装置の導入を効率的効果的にできる。
模範解答3 (簡易答案2) 添削履歴0 作成日2020/5/14 機械部門 科目:機構ダイナミクス・制御 専門事項 精密機器
1.調査、検討すべき事項とその内容
(1) 高出力動力に由来する騒音振動の発生予測と伝搬分析
新装置からの騒音振動の発生原理を解明し、低減する方法を調査・検討する。
(2) 騒音振動による環境予測と改善対策
近隣住宅地での騒音振動を予測し法規制値以下にする防音防振対策を調査・検討する。
(3) 高出力動力実験の回数低減実験計画
高出力実験の回数を低減させるための方法を調査・検討する。
2.業務を進める手順について、留意点・工夫を要する点
手順1:FTAで新装置からの騒音振動源要因と伝搬要因を推定する。
手順2:それら要因を対策する為に新装置に防音防振部材の効果的な付加方法をCAEで検討し、その結果放出される振動騒音を見積もる。
手順3:最も伝搬しやすい気象条件において、現有装置の実測値から振動騒音が住宅地まで伝搬すると何%減衰するか推定し、手順2で見積もった値が住宅地でどれだけになるか見積もる。
手順4:手順3で法定値以下と見積もれたら新装置や防音防振材を施工する。
手順5:高出力実験の回数を減らす実験計画法の検討、数値実験に代替するためのシミュレータの調査、更に相似則を活用した低出力での代替実験を検討する。
3.業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策
(1)装置メーカから新装置の3D-CADデータを購入し防音防振部材施工メーカに提供する。これにより防音防振部材施工メーカのCAEによる施工設計が効率的・効果的になる。3D-CADデータが近隣環境保全の為に必要である旨を設備部門に説明し3D-CADデータ分の追加予算の承認を促す。
(2)総務部門がコンプライアンスの観点で法定値よりも更なる騒音低減を主張する。一方設備部門からは法定値を満たす以上の防音対策費用は出せない旨主張する。そこで防音対策は法定値対策のレベルでとどめておく。一方騒音の伝搬しやすい風向きの日の実験は避ける様に新装置運用ルールを定める。これにより防音部材施工を最小限に抑えられることで設備部門の主張を満たし、同時に総務部門の法定値よりも更に10 dB低減を見込めることで、両部署の理解を得る。よって新装置の導入を効率的効果的にできる。
模範解答3 (完成答案) 添削履歴3 作成日2020/5/19 機械部門 科目:機構ダイナミクス・制御 専門事項 精密機器
1.調査、検討すべき事項とその内容
(1) 高出力動力由来の騒音振動の発生予測と伝搬分析
新装置の騒音及び振動のパワー、周波数特性を調査し、騒音振動の伝搬減衰を検討する。
(2) 騒音振動による環境予測と改善対策
住宅地での騒音振動レベルを調査し、近隣住民の生活環境に及ぼす影響を検討する。騒音振動が法定値を超える場合は防音防振対策を検討する。
(3) 高出力動力実験の回数低減
新装置で行われる実験の頻度、出力値を調査する。実験計画法により実験頻度を減らすことを検討する。
2.業務を進める手順、留意点・工夫を要する点
手順1:新装置からの騒音及び振動が住宅地まで伝搬するまでにどれだけ減衰するか計算する。実験所から住宅地までの3次元の地形データや建造物データを考慮できるCAEを用いることで精度良く効率的に計算する。
手順2:住宅地へ伝搬する騒音振動が、法定値レベルを超えるか否かを判断する。超える場合は装置からの騒音振動の周波数に効果的な防音防振材の施工設計を検討する。
手順3:新装置及び防音防振部材の施工設計をする。電気などのユーティリティを引き込むダクトから騒音振動が外部に漏れない様に防振支持、ダクト消音機を設ける。
手順4:実験計画法を用いて実験回数を減らす。即ち試験サンプルとなる機械構造の性能に対して、寄与度の高い設計因子を統計的手法で少ない実験回数で明らかにする。
3.業務を効率的、効果的に進める関係者との調整
(1)防音防振施工のQCD向上の為の調整
私は装置メーカから新装置の3D-CADデータを購入し防音防振部材施工メーカに提供する。しかし自社の設備部門は施工メーカの経験に任す事を主張しデータ購入を反対する。そこで施工メーカがその3D-CADデータを活用したCAEでより効率的・効果的に施工設計できる旨を私は自社の設備部門に説明する。効果の高い防音防振施工が比較的安価に早く実現でき、自社の設備部門らを取りまとめ出来る。
(2)コンプライアンスとコストの両立の為の調整
自社の総務部門がコンプライアンスの観点で法定値よりも更なる騒音低減を主張する。一方自社の設備部門は法定値を満たす以上の防音対策費用は出せない旨主張する。そこで私は騒音の伝搬しやすい風向きの日の実験は避ける様に新装置運用ルールを定める。これにより防音部材施工を最小限に抑えると同時に法定値よりも更に10 dB低減を見込めるので、自社の両部署の理解を得る。よって新装置の導入を効率的効果的に取りまとめできる。
解説
(1)課題の分析のしかたについて
課題文の条件から素直に課題を抽出することです。予測や想定ではいけません。
調査項目と検討事項だけでよいのに、対策まで踏み込んでしまう人が多いようです。あせらず落ち着いて問いに答えるようにしてください。
分析はされているのですが、業務上、即対策を求める習慣が根強くあるためか、じっくり分析できる方は少ないみたいです。
落ち着いて段階を追って分析する姿勢を身につけていかないと、合格は難しくなります。
調査→検討分析→提案方策対策の3ステップを確実に書き出し、説明する癖をつけてください。
今後は、課題要求に対し、忠実に必要なことのみ論理だって記述します。
それぞれの骨子をつながりで、一貫した説明が成立しており、矛盾のないことが絶対条件です。
(2)解決策の提案、方策の考え方、書き方などについて
文末尾は、〜する。という形に統一するように。
手順が変わったら、段落を改行するように。自然な文書でまとめてください。
解決策は自分が経験したことをもとに記述し、憶測で解答しないこと。
具体性に欠ける、疑わしいことなど、あいまいなことは技術士の品位誠実性に欠けるので絶対に避けるように。
手順はあまり多すぎても、逆にわかりにくくなり、伝わらないので、絞って説明するように。
回りくどい説明は、わかりにくいので、避けること。
(3)留意点などの考え方、書き方などについて
方法論の後に、留意・工夫点という記述順序の方がわかりやすいです。
(4)調整の考え方、書き方などについて
関係者は2者以上で、それぞれの異なった意見要望に対し、私のすり合わせで、QDC各要素や効果バランスで最も良いとういう理由となるように説明を行うこと。
具体的には、プロマネとして、こう取りまとめたということを記述します。
文末尾は、〜により関係者を調整したと記述するのでなく、「調整」を別の言葉に置き換えた方がよいでしょう。例えば、〜により関係者を取りまとめた、という形が伝わりやすいかもしれません。