機械部門 選択科目Ⅲ 解答者01 機構ダイナミクス・制御 専門:精密機器
予想問題 Ⅲ-1 簡易答案
SDGsのターゲットの一つに「2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。」が掲げられている。一方我々の社会は実に多くの機械製品に支えられている。特に、自動車及び家電製品といった機械製品は、我が国の消費エネルギの多くを占めるのでこれを抑えることがSDGsの達成に重要である。そして、このような製品開発においては、その個々の機械に合わせて特化した対応・対策が不可欠となってくる。このような背景を考慮して、次の各問に答えよ。
(1)消費エネルギの小さな機械機器・装置の製品開発に向けて、機械技術者の立場で多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する解決策を具体的に3つ示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
1.課題の抽出と分析
(1)摩擦低減:機械の摩擦を低減しエネルギロスを少なくして限りある資源を有効に使う。社会の持続可能性を向上させる。
(2)軽量化:機械を軽量化してそれを動かす為に使うエネルギを少なくする。炭素繊維や軽金属を用いて構造解析により強度を保ち軽量化設計し、機械の動作、移動に伴う消費エネルギを低減する。
(3)制御最適化:制御を最適化して必要最小限の出力で機械を動かす事で使うエネルギを少なくする。AIを使った制御により効率的にメカを制御する。
2.最も重要と考える課題「1.(1) 摩擦低減」の解決策
(1)転がり軸受の耐荷重向上:大きな耐荷重が求められる場合でもすべり軸受ではなく、転動体に予圧を与える機構を設けた軸受剛性の高い転がり軸受を用いる。
(2)すべり面の低摩擦化:すべり軸受のすべり面に溝を設け、その溝の深さよりも1~3μm直径の大きなPTFE粒子を添加した潤滑剤を塗布し低摩擦にする。
(3)非接触化:磁力又は空気圧力などを活用し浮上させることで、接触して摺動していた機構を非接触にして低摩擦化する。
3.リスクと対策
リスク:従来品よりも静粛で振動なく駆動し使用者が停止中と勘違いする。これにより装置の停止忘れや不要なアイドリング状態の継続等でエネルギの無駄を誘発するおそれがある。よって社会の持続性に寄与できなくなるリスクがある。
対策:機械が作動中である事を一定時間おきにランプ、ブザー等で知らせる。
予想問題 Ⅲ-2 簡易答案
コンピュータ・ソフトウエアを介して複数の機械が融合したIoTシステムの高度化が進行している。その一形態として、Connected Industryではすべての機械をIoTでつないで管理し、会社間をまたいでデータのやり取りをすることで効率化、高品質化に取り組んでいる。このような背景を考慮して、次の各問に答えよ。
(1)Connected Industryの運営にあたり、技術者としての立場で多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する解決策を3つ示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
1.課題の抽出と分析
(1)製品企画でのビッグデータ活用:自社製品の顧客元での利用状況のビッグデータを取得する。顧客が製品をいつ、どの様に操作したかを逐一把握し、顧客のニーズをより満たす製品にする。
(2)設計での3D-CAD活用:3D-CADで設計した試作品のメカ部分をプログラマブルロジックコントローラで制御シミュレーションし、メカ部分の完成を待たずして制御系を仕上げる。その間に加工業者が3D-CADデータをそのままCAMに入力しメカ部分を素早く作製する。
(3)生産での履歴活用:1部品毎製造履歴を確認・記録し、製造中即時に不良品を発見可能にし、又納品後に品質問題が顕在化しても製造履歴を追える様にする。
2.製品企画でのビッグデータ活用の解決策
(1)ビッグデータ分析:顧客がどの様な機能を真に欲しがり又不要としているかをビッグデータから読み解き製品仕様を決める。工作機器のロボットアームの軌跡データを集め、頻度の高い軌跡を見つけだす。価値工学に基づく定量的判断に基づきより軌跡を短くし、タクトを短縮させる自由度を持つアームにする。
(2)ツール環境整備:OLAP、OLTPを使って効率的にビッグデータ分析をする。上述の工作機器では、軌跡データを簡略化した経路グラフの自動生成による起動分析技術を活用して、頻度の高い軌跡を探し出す。
(3)データ環境構築:製品に取付けたスマートセンシングにより必要なデータを収集し、IoTを使ってメーカへ逐次送信する。上述の工作機器では、ロボットアームの軌跡と加工されているワークの軌跡を時間的相関がわかる形で収集する。
3.リスクと対策
リスク:ビッグデータを基準としたニーズに基づき製品企画を続けて行くと、いつしかマイノリティのニーズを無視した製品企画に陥るリスクがある。
対策:企画担当者が疑似体験技術を使ってビッグデータを補完するマイノリティのニーズデータを収集する。企画する製品の3D-CAD画像を高齢者の視野になる画像処理技術を使って疑似体験し、高齢者の使い勝手を検証してニーズを抽出する。そのニーズを満たすユニバーサルデザインを企画に反映させる。
予想問題 Ⅲ-3 簡易答案
製品のコストは性能・価格と同様に製品の価値を定める重要な要素であり、コストパフォーマンスの低い製品は市場から継続的な支持を得られない。そのため、製品開発に従事する者はコスト意識を常に念頭に置いて設計変更や材料の選択などを行っている。そしてこれからはもっと革新的に、エンジニアリング・チェーン(研究開発ー製品設計ー工程設計ー生産と)の上流を厚くすることで設計力を強化し、手戻りをなくすことで設計から生産までのリードタイムを短縮するフロントローディングによるコスト低減が試みられようとしている。このような背景を考慮して、次の各問に答えよ。
(1)2D図面を廃しすべて3Dデータで設計し、更にこの3Dデータを使ったCAEにより極力試作回数を減らすフロントローディングを行うことを目論んでいる。このとき機械技術者の立場で多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する解決策を具体的に3つ示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
1.課題の抽出と分析
(1)品質確認の前倒し:設計部門が3D-CADで構想試作品を設計している段階で信頼性試験のシミュレーションも行う。品質部門がシミュレーションの妥当性確認及び未知パラメータのデータ取り実験について協業する。
(2)シミュレーションによる制御系設計:試作品のメカ部分の3Dデータをプログラマブルロジックコントローラで制御シミュレーションする。これによりメカ部分の試作品なしで開発部門が制御系を仕上げる。そして試作を繰り返す事なしに開発費を削減しコスト低減する。
(3)製造工程低コスト化:設計部門が3D-CADで構想試作品を設計している段階で製造部門が工程設計をシミュレーションする。実際の生産開始まで時間があるので、最新工法採用によるコスト低減の検討等、KPI(Key performance indicators)の最適化を多面的にはかり製造コストを抑える。
2.最も重要と考える課題「1.(1) 品質確認の前倒し」の解決策
(1)設計修正箇所のフィードバック:信頼性シミュレーションにより3Dの構想設計品の故障メカニズムを明らかにする。それを基に補強すべき構造箇所を明らかにし、試作レスで品質の改善をする。
(2)製品仕様の妥当性確認:ユーザニーズの求める品質で製品が機能を発揮できるかシミュレーションで確認する。仕様通りなのに品質未達の場合は、定めた仕様に瑕疵があるので、企画部門はシミュレーションデータを基に仕様の修正をする。
(3)新構造:同じ品質仕様を満たす設計バリエーションをCAEに自動設計させ、その中から製造工程や材料に係るコストの最も低いデザインを選ぶ。コスト低減の為に後戻りしない様にコスト低減検討の漏れを防ぐ。
3.リスクと対策
リスク:各社競ってCAEを使って品質確認を行うフロントローディングで開発を進めると、CAE技術者の奪い合いになってしまう。その結果人材不足でせっかく立ち上げたフロントローディングの仕組みが実施できなくなるリスクがある。
対策:リモートでのCAEの環境を整え、有能な地方に住む潜在技術者や外国人技術者が住居を変えることなく活躍し人材不足を解決する。
予想問題 Ⅲ-4 簡易答案1
近年、情報処理技術及び半導体デバイスの進化により、ものつくりの現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)がクローズアップされてきている。エンジニアリング・チェーン(研究開発ー製品設計ー工程設計ー生産)の上流を厚くすることで設計力を強化し、設計から生産までのリードタイムを短縮し、企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)を強化する。あなたがデジタルトランスフォーメーションを導入する推進者に指名されたとして、以下の問いに応えよ。
(1)デジタルトランスフォーメーション(DX)を導入するにあたり、機械技術者の立場で多面的な観点から複数の事例を挙げて、それぞれDXによって生産性を高めるしくみ原理を示せ。
(2)抽出した事例のうち最も重要と考える活用法を1つ挙げ、その活用法をより高度化するための課題、解決策を述べよ。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
1.DXの事例と生産性向上の仕組み原理
(1)超音波メスの製品設計ではCADデータをメッシュにし有限要素法の原理で共振振動モード解析して、止血切断性の良好なメスを生産する。つまり有限要素法の原理によってCADで示した機構を要素化して運動解析する。
(2)ワイヤボンディングの工程設計では、組図の3D-CADデータにワイヤボンダの形成可能なワイヤ形状を追加することにより、製造可能で他構造と干渉しないワイヤボンディングの工程設計の容易性を高めている。
(3)半導体組立の製造では、位置決めボンダの設定値を検査データと比較することにより、回帰分析の原理で工程能力指数を高く保ち生産性を高めている。
2.最も重要な活用法と高度化のための課題と解決策
(1)最も重要な活用法は機構を要素化して運動解析する活用法である。
(2)高度化のための課題と解決策
①-1.課題:S-N曲線データと各メッシュの応力計算値Sから、機構内の各メッシュにおける耐久寿命(Nの回数)を算出する。これにより機構の耐久寿命と初期破壊箇所を明らかにする。
②-2.解決策:S-N曲線測定時の様に引張応力と圧縮応力が同じ大きさで繰り返す事は実際希なので、S-N曲線を平均応力修正理論で補正して計算する。
②-1.課題:力の釣合いだけで考えてもよい拘束されない系についても有限要素法では剛体変位しない様に境界条件として拘束条件を与える必要がある。
②-2.解決策:機構の境界に作用する互いにつり合った仮想荷重を与える。仮想荷重のベクトル和は0ベクトルとなるので現実とかい離せず正確に計算できる。
③-1.課題:複雑な機構もなるべく短時間で経済的に精度の高いシミュレーションをする為に、求められる計算精度に収まる範囲でメッシュ数を最小にする。
③-2.解決策:応力勾配が大きな領域や評価点は細かく、応力勾配が小さい・評価領域より遠くはなれたところは粗くメッシュを分割する。
3.高度化の為の解決策に共通し新たに生じるリスクと対策
設計が仮想空間で完結し設計者が現物に触れる機会がない為、設計した機構が使用者に危害を与えるリスクを想像しにくい。そこで使用中の使用者の身体もCAD上に再現し使用者の安全を確認し事故リスクのない設計をする。
予想問題 Ⅲ-4 簡易答案2
1.DXの事例と生産性向上の仕組み原理
(1)有限要素法を使った設計
超音波メスの製品設計ではCADデータをメッシュにし有限要素法の原理で共振振動モード解析して、止血切断性の良好なメスを生産する。つまり有限要素法の原理によってCADで示した機構を要素化して運動解析する。
(2)3D-CADデータを使った工程設計
ワイヤボンディングの工程設計では、組図の3D-CADデータにワイヤボンダの形成可能なワイヤ形状を追加することにより、製造可能で他構造と干渉しないワイヤボンディングの工程設計の容易性を高めている。
(3)ビッグデータの回帰分析による工程能力指数向上
半導体組立の製造では、位置決めボンダの設定値を検査データと比較することにより、回帰分析の原理で工程能力指数を高く保ち生産性を高めている。IoTでリアルタイムにデータを収集し分析して位置決めボンダにフィードバックできる。
2.最も重要な活用法と高度化のための課題と解決策
(1)最も重要な活用法は機構を要素化して運動解析する活用法である。
(2)高度化のための課題と解決策
①耐久性のシミュレーション
①-1.課題:S-N曲線データと各メッシュの応力計算値Sから、機構内の各メッシュにおける耐久寿命(繰り返し応力の回数N)を算出する。これにより機構の耐久寿命と初期破壊箇所を明らかにする。
①-2.解決策:S-N曲線測定時の様に引張応力と圧縮応力が同じ大きさで繰り返す事は実際希なので、S-N曲線を平均応力修正理論で補正して計算する。
②複雑モデルの単純化
②-1.課題:複雑な機構もなるべく短時間で経済的に精度の高いシミュレーションをする為に、計算精度に影響のない範囲でその機構のモデルを単純化する。
②-2.解決策:サンブナンの原理を用いて、例えば評価対象領域から十分離れた領域や評価対象とならない低応力部は削除を含めた単純化をしてモデル化する。
③メッシュの最適化
③-1.課題:複雑な機構もなるべく短時間で経済的に精度の高いシミュレーションをする為に、求められる計算精度に収まる範囲でメッシュ数を最小にする。
③-2.解決策:応力勾配が大きな領域や評価点は細かく、応力勾配が小さい・評価領域より遠くはなれたところは粗くメッシュを分割する。
3.高度化の為の解決策に共通し新たに生じるリスクと対策
設計日程が短縮するので繁忙期に各種設計の製造待ちがエンジニアリングチェーンのリードタイムのボトルネックとなるリスクがある。そこでロボット、検査装置等工場内の全装置をIoTでつなぎ工程短縮化、高歩留まり化し、更に在庫管理等の業務もAIで最短化して製造時間を短縮する。
予想問題 Ⅲ-4 完成答案
1.DXの事例と生産性向上の仕組み原理
(1)有限要素法を使った設計
超音波メスの製品設計では設計に係るCADデータをメッシュに分割し、有限要素法の原理で共振振動のモード解析をする。これにより止血切断性の良好なメスを生産する。
つまり有限要素法の原理によってCADで示した機構を要素に分割して運動解析する。
(2)3D-CADデータを使った工程設計
ワイヤボンディングの工程設計では、組図の3D-CADデータにワイヤボンダの形成可能なワイヤ形状を追加する。これにより製造可能で他構造と干渉しないワイヤボンディングの工程設計の容易性を高めている。
つまり3D-CADデータの干渉検知機能を活用する原理によって、高効率に工程設計をする。
(3)ビッグデータ回帰分析による工程能力指数向上
半導体組立の製造では、チップをパッケージへ位置決め配置する位置決めボンダの設定値を検査データと比較する。ここで位置決めボンダと検査装置はIoTでつながれリアルタイムにその比較がなされる。そして回帰分析の原理で工程能力指数が高くなるようにその設定値をリアルタイムで自動調整する。
つまり回帰分析の原理で工程能力指数を高く保つ事を可能とし、生産性を高めている。
2.最も重要な活用法と高度化のための課題と解決策
(1)最も重要な活用法は機構を要素に分割して運動解析をする活用法である。
(2)高度化のための課題と解決策
①耐久性のシミュレーション
①-1.課題:S-N曲線データと機構内の各メッシュの応力計算値Sから、それら機構内の各メッシュにおける耐久寿命(繰り返し応力の回数N)を算出する。これにより機構の耐久寿命と初期破壊箇所を明らかにする。
①-2.解決策:S-N曲線測定時の様に引張応力と圧縮応力が同じ大きさで繰り返す事は実際希なので、S-N曲線を平均応力修正理論で補正して計算する。
②複雑モデルの最適化
②-1.課題:複雑な機構もなるべく短時間で経済的に精度の高いシミュレーションをする為に、計算精度に影響のない範囲でその機構のモデルを単純化する。
②-2.解決策:サンブナンの原理を用いて、例えば評価対象領域から十分離れた領域や評価対象とならない低応力部は削除を含めた最適化をしてモデル化する。
③メッシュの最適化
③-1.課題:複雑な機構もなるべく短時間で経済的に精度の高いシミュレーションをする為に、求められる計算精度に収まる範囲でメッシュ数を最小にする。
③-2.解決策:応力勾配が大きな領域や評価点は細かく、応力勾配が小さい・評価領域より遠くはなれたところは粗くメッシュを分割する。
3.高度化解決策に共通し新たに生じるリスクと対策
(1)リスク:設計日程が短縮するので設計完成済みの製品の製造工程待ちが、製品の完成・出荷のボトルネックとなるおそれがある。そうなると設計を素早く完成する事でよりタイムリーに顧客元へ製品を出荷する目論見が崩れるおそれがある。
この様になった場合、設計日程短縮によって短納期化し他社との差別化を目論んだ経営戦略が成り立たなくなって企業の付加価値を喪失してしまうリスクがある。
(2)対策:工場内の全装置を調査しIoT でつなぐ。そしてAIも活用して、設計の3Dデータを入力すれば自動的に製造され品質や在庫も自動管理するシステムを製造現場に導入する。これにより工程時間が短縮され、更に歩留まり高く製造できるので作り直しも生じにくくなる。
よって製造時間の短縮を図る事ができる様になるので、設計済みの各種製品の製造工程待ちによるボトルネックが生じる懸念が小さくなり、タイムリーに完成・出荷できる様になる。
以上により受注から納品までが早いという企業の付加価値をより確実に守る事ができる。
予想問題 Ⅲ-5 簡易答案
「ものづくり」の革新的な高効率化を実現するとともに、新たなビジネスモデルを創出し、これまでにない製品を生み出そうとする第4次産業革命を実現するための取り組みが世界中で行われている。この中で、共通して取り組まれているのは、「ものづくり」のデジタル化とIoT(Internet of Things)の有効活用である。これらに関連して、以下の問に答えよ。
(1)「ものづくり」とは、単なる製造プロセスを指すものではないことを機構ダイナミクス・制御に係る「ものづくり」の例を1つ挙げて具体的に説明せよ。さらに、その「ものづくり」の1プロセスである製造プロセスのデジタル化における課題を多面的な観点から3つ以上抽出し、分析せよ。
(2)抽出した課題のうち、最も重要と考えるものを1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)デジタル化における課題に対する解決策に共通して新たに生ずるリスクを2つ以上挙げて、それへの対応について述べよ。
1-1.内視鏡は検査・治療のニーズを調査する製品企画、それを具現化するまで繰り返される開発・設計を経て製造される。更に出荷後も安全維持の為のサービスを要する。つまり「世に役立つ内視鏡のものづくり」は製造プロセス以外の製品企画、開発・設計、サービスの各プロセスにも多大なリソース、努力を投じなければならない。よってものづくりは単なる製造プロセスではない。
1-2.課題の抽出と分析
(1)3Dデータを活用して製造プロセスを高効率化する。シミュレーションにより高効率な工程設計を行いIoTで工場内の全装置をつなぎより高度な自動化を行う。
(2)在庫を自動管理する。生産実績、IoTで管理された部品在庫数等から予想される必要発注数をAIで計算し自動発注する。IoTでつながれたロボットで在庫品の収納、装置への搬送を行う。
(3)1品毎にIoTで工程履歴と検査履歴のトレーサビリティを取る。不良品発生の際に工程と検査の相関から原因究明を容易にする。
2.最も重要と考える課題「1.(1)3Dデータの活用」の解決策
(1)3Dデータを基にGP4等の生産ラインシミュレーションを行う事によって最適な工程設計を行う。
(2)3Dデータで示された設計の加工や組み立てをどのセル、ラインで行えば最も効率的かMES(製造実行システム)を使ってリアルタイムで自動判断する。
(3)個別受注製品で人手に頼る際も、その3Dデータを基に作成された作業ナビゲーションを作業者のウエアラブル端末に表示し、更にはAR(拡張現実)で示す事で高効率に作業を進められるようにする。
3.リスクと対策
リスク:設計部門で設計変更があった際、新3Dデータをすべてのシステム、装置に入力する必要がある。しかし各システム、装置担当者に依頼すると人的ミスにより漏れが発生するリスクがある。
対策:設計部門のコンピュータから製造部門の基幹コンピュータに新3Dデータを転送すればそこからIoT経由で生産ラインシミュレータ、MES、作業ナビゲーション等生産部門の全装置、システムに漏れなく反映されるシステムにする。
予想問題 Ⅲ-6 簡易答案
今日製品開発に当たっては、要求仕様の満足度をCAEによって見積もることが設計業務の効率化、ひいてはコストダウンや労働者不足の観点から重要視される。しかし、CAEで見積もった値は製品性能の一面に過ぎないため、これを鵜呑みにし試作による確認を怠ると通常の使用状態や多面的な評価では高性能とは言えない製品を製造・販売してしまうことになる。このような製品は消費者や社会の期待を裏切るものである。これを踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)機械製品のものづくりにCAEを活用した設計部門の設計に対して、機械製品統括技術者の立場で多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する解決策を具体的に3つ示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
1.課題の抽出と分析
(1)パラメータの妥当性向上:適切なパラメータをシミュレーションに用いる。パラメータをそのまま使わずに実製品の構造や使われ方に則して補正し、又世の中にデータがなければ自社で測定する。
(2)バーチャルモデルによる確認:CAEで求めた解をバーチャルモデルで表現する事で、容易に製品に起こる現象を理解できる様にしてレビューしながら設計を進める。
(3)CAEリソースの有効活用:複雑な機構もなるべく短時間で経済的に精度の高いシミュレーションをする。メッシュ分割やモデルの簡略化を適切にする。
2.最も重要と考える課題「1.(1)」の解決策
(1)S-N曲線データと応力計算値Sから耐久寿命(Nの回数)を算出する。S-N曲線測定時の様に引張応力と圧縮応力が同じ大きさで繰り返す事は実際希なので、S-N曲線を平均応力修正理論で補正して計算する。
(2)同じ材質でも、処理条件や、バルクと薄膜の違い等で物性値が変化するので、実際使われる部品に則した態様の材質の物性値で計算する。
(3)複数のパラメータの誤差がシミュレーション結果へ影響する大きさを見積もる。誤差ばらつきが正規分布する場合は平方和、しない場合は公差を単純和して見積もるシミュレータのアルゴリズムにする。
3.リスクと対策
リスク1:製品の挙動や機能を示すモデルや解析データがリアル環境を再現できず、実製品で想定外の力学挙動や応力発生により事故が生じる恐れがある。
対策1:最終検証はバーチャルと実物試作を併用する。
リスク2:リアル製品の出来具合やリアル環境のばらつきによって事故の起こるリスクがある。
対策2:リアル環境を想定した多種多量のデータにシックスシグマの原則を適用することで品質上の問題となりうる潜在的なリスクを解消する。